私の一生忘れないであろう恋の想い出は、高校1年の頃に遡る。
同じ部活の同級生に片想いをした。そして、人生で初めて告白をした。そして、人生で初めて失恋をした。

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私は当時、弓道部に所属していた。彼は弓道初心者にも関わらず、はじめから上手に的を射抜いた。顧問の先生にも、先輩方にも、同級生たちにも一目置かれる存在だった。瞳が大きくて少しウェーブがかった髪をしていた。そんな彼を、いつからか私は少しずつ好きになった。

とはいえ、恋愛は全くの初心者。それまで片想いはあれど、交際経験はなく、男の子からアプローチを受けたこともなかった。
しかし当時は高校生。周りはどんどん恋人ができて、私と同じ制服を着たカップルをショッピングモールで見かけることも多かった。周りにつられたようで恥ずかしいが、私は彼と付き合いたいと思った。手を繋ぎたいと思った。弓道の本を読む後ろ姿を、抱きしめたいと思った。

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ちょうどその頃、同じく弓道部の同級生だった女の子は先輩に片想いをしていた。彼女は自らアタックして、私と同い年なのに、あっという間に告白して、見事先輩の心を射止めた。
私はそんな彼女を心底尊敬した。そして気付いた。
自分から動かないと、恋は始まらない。

何も分からないなりに、友人や仲の良い先輩に相談しながら、不器用なアプローチをはじめた。わざと彼の教室の前を通ってみたり、登校時間を合わせてみたり。勇気を振り絞って連絡先も聞いた。誕生日には彼から好きだと聞いたドーナツをプレゼントした。

そんな見え見えなアタックを堂々とするものだから(恋愛初心者の私は匂わせというものを知らなかった)、あっという間に部内では私が彼を好きなことが伝わった。
それでも全然平気だった。今思うと、まさに青春の力だと思う。正直、大人になった今、あのときみたいに好きを押すのはなかなか厳しい。

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そんなある日、友人は「いつ告るの?」と私に聞いた。良い意味でこどもだった私は、そのままの勢いで彼に想いをぶつけた。部活時間が終わり、片付けも済んだ彼を人気のない駐車場まで呼び出した。

「好きです。だから、そういう関係になりたいなって」
今でも覚えている。私は確実にこのセリフを口にした。「付き合ってください」がなんだか恥ずかしくて言えなかったのだ。
その日、彼はいったん返事を保留にした。しかし数日後、ごめんなさい、といった連絡が届いた。
当時の私は初めて付き合いたいと思った人に振られた訳だから、とにかく落ち込んだ。食事も上手く喉を通らず、母には心配された。もちろん、たった16歳の高校生だから少し経てば気持ちは切り替わっていたが。

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さて、そんな経験から学んだことは3つある。
まず1つ目は、恋は自ら動かないとはじまらない。稀に、全く興味のなかった男性からのアプローチではじまる恋もあるらしいが、それは本当に奇跡だと思う。私のなかで、そんな経験ができるのは選ばれし美人だけだと割り切っている。当時の私は、自分から動いたところで恋愛には繋がらなかったが、近くで見ていた友人は、自らアプローチして、最愛の彼氏を手に入れた。

2つ目は、アプローチには配慮が必要。同じ弓道部だった女子友達から、高校卒業数年後に言われたことだが、色々な意味ですごいな、と思っていたらしい。振り返ると、私も自分がすごかったと思う。あまりグイグイいきすぎると、周りが気まずい。高校生だから許されたものの、大人になったらある程度の配慮は必要だ。

3つ目は、押して押して押しまくっても、相手が全く寄って来なかった場合、その恋は雨模様。話しかけるのも、連絡先を聞くのも、連絡するのも、誕生日プレゼントも、全部私からだった。私からだけだった。

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悲しい話だが、ここまでして一切の見返りがなかったあの恋は、今振り返ったら、間違いなく実らない。実らない恋に意味がない訳ではないし、気持ちの区切りをつけるために敢えて当たって砕けるを選ぶのもアリだとは思うが、当時の私はそんな状況でも光を感じてしまっていた。

総じて、この恋は私の恋愛観を少しだけ大人にしてくれた。待っていても変わらない、恋に恋するのはよくない、ある程度結果を見据えるのも大切。
結果だけ見ると、初めての告白に失敗した最悪な想い出だが、その背景には色々な学びがあった。

あれから8年。私は何度か振られて、振って、実って、を経験した。振られたときは、諦めるために振られにいったみたいな告白だった。振ったときは、私自身の苦い想い出を片隅に置いてしっかり諦められるよう丁寧に断った。実ったときは、ある程度慎重に、でも少し勢いもあったと思う。

決して恋愛経験豊富な大人にはならなかったが、ちゃんと恋愛できてきたのは、当時の恋があったからだと思う。あの時の彼が、今どこで何をしているのか分からないけど、勝手に感謝したい。8年前、幼かった私と真摯に向き合ってくれてありがとう。