若い頃は、恋愛はゲームのようなものだと思っていた。
本当に馬鹿だったから、盛り上がった二人の火が落ち着いてしまわないように駆け引きや嫉妬みたいなスパイスばかり楽しんで、相手を傷つけているかどうかが見えていなかった。
今思えばどうしてそんなことが出来たんだろうと、自分の未熟さが恥ずかしくてならない、そんな苦い思い出がある。

簡単に言うと、恋人の前で「あの芸能人はかっこいい」だの「あの子はおしゃれ」だの、わざと嫉妬させるようなことを無神経に言っていたのだ。
もちろん恋人同士で異性の誰がかっこいいとか、そういう会話になるのは自然だし、何もおかしなことではないと思う。
のだけれど、それは緩衝材に包んでお互いにやりとりするべきデリケートな会話であって、それが何の包装もされずに不躾にやりとりされていたら、ぶつけられた方は怪我するだろう。想像力の乏しい私にはそれが分からなかった。

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その頃、彼と私は数年付き合った仲で、ドキドキ感だったり毎日の連絡も少なくなってきた頃だった。私は彼やこの関係にドキドキしたかったんだと思う。
彼に対して他の異性を褒めるようなことを言って、あわよくば嫉妬でもしてくれたらいいのにな、と心の中でくだらない企みを立てていたのだ。

そんなある日、彼に「どんな女の子が可愛いと思うの?」と意地悪な気持ちを込めて聞いたことがある。
その時の彼の、うんざりしたような呆れたような顔が忘れられないのだが、こう言われたのである。
「君のこと可愛いと思ってるから一緒にいて、こんなに大切にしてるのに、何でそんなこと聞くの?」と。
そして、「俺はそういう話はしない。男同士では世間話としてするかもしれないけど、君には言わない。誤解されたくないし傷つけたくないから」と言われたのを今でも痛いくらいよく覚えている。
俺はお前のくだらない意地悪を今まで我慢して聞き流してやっていたんだぞ、という意味も込められているような言い方で、なんだか調子に乗って親に怒られる子供にでもなった気分だった。その時やっと気づいたのだ。

恋愛に本当に必要なものは、いや、恋愛だけでなく全ての人間関係に本当に必要なものは、スパイスじゃなくてリスペクトだと。伝えなきゃいけないのは、意地悪じゃなくて、どれだけあなたを大切に想っているか、大好きかってことだと。
この世で一番かっこよくて、私が一緒にいたいと思っているのは芸能人や誰々君ではなく、ただ一人、あなたなんだということだ。

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今思えば、馬鹿馬鹿しすぎて、幼稚すぎて、何てくだらないんだろうと顔から火が出てしまいそうな恥ずかしい思い出だが、あの時彼が私を叱ってくれるような優しい人で本当によかったと思う。
でも、世の中誰もが優しいわけでもないし、叱ってくれる人だけが優しいわけでもない。こんなくだらないことで、簡単に人間関係は壊れてしまうこともあるんだと、大人になった今ならよく分かる。
リスペクトを忘れた人間関係ほど、お互いにとって毒なものはないものだ。
私は好きな人に毒を飲ませるような恋人ではいたくない。
大切な人にはただ好きだという気持ちを、リスペクトを、思いやりを、真心を送れるような人間でありたい、という思いをこの思い出が時々思い起こさせてくれるのだ。