昔からチューイングキャンディというお菓子が好きだ。飴のように根気よく舐め続ける必要も無く、ガムのように味が無くなったら吐きだす必要も無く、噛んでいたらゆっくり溶けて無くなるお菓子。
噛むことによって味が口全体に広がって濃くてとても美味しい。そんなお菓子を口いっぱいに頬張って、溶けきる前に数個補填して延々と噛み続けるのが、私の現実逃避方法。

味が濃すぎてだんだん脳が考えることを放棄し始めて、味覚に全てが集中する。口をリスの様にパンパンに膨らませてクチャクチャと噛み続ける様を見られるのは恥ずかしいから家でしか出来ないが、これがなかなかいいストレス発散になる。
体には確実に悪いけど。主に歯に。だけどやめられない。

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何事も考え過ぎは良くない、だけど考えないというのはとっても難しい。どうしても人は考えてしまう生き物だと思うから。そんな時、私はどこのメーカーでもいいからチューイングキャンディを買ってきて延々と口に放り込む。
最初に大体5個くらい入れて、2分おきくらいに3個のペースで追加を口に入れる。5分もすれば殆ど何も考えられていない。ただただ口内の味の暴力に翻弄されるのみだ。
そうなればもう何味を入れたかも分からない、空のゴミだけが目の前に積み上がっていく。それに謎の達成感を感じる。
そして追加分が無くなったら、口の中で小さくなっていってしまう味の塊に寂しさを感じつつ、ゴミを片付けだす。食べ終わった後はコップの水を一気飲みして終わり。
あまりにも疲れた時、精神的にしんどい時にこの食べ方をする。自分でも異常な数を食べているのは自覚している。だけど私はあまりお菓子を食べる方ではないから……まぁ、多めに見ている。

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人にお勧めは出来ないが、一度弟にこの方法を試したことがある。
当時の彼は大学卒業を間近に控えているのにも関わらず就職先が決まらず、精神的に少し病み始めていた時だった。下宿していたアパートを出て、1人暮らしの私の所に転がり込んできた。そして約3か月ほど一緒に暮らした。

ある日、彼はリビングのソファに寝そべって将来について憂いていた。思考が行き詰まっていたようで、どうにもネガティブな事ばかりを言うから、私は小袋に入った小粒のチューイングキャンディを弟の口の中にザラザラと投入した。
「これでなんも考えられんようなるから。なーんも考えられんから楽になる」
危ない薬のような煽り文句と共に延々と弟の口に投入し続けた。

最初は「そんなわけない」と言っていた彼だが、2つ目の袋を開封したところで「なんも考えられんくなってきた……」と言った。私としてはまだまだ序の口で、あと3袋は食べさせる気だったが、弟は「あー。なんも考えられんわ」と言いながら部屋に帰っていった。

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次の日、弟は昨日食べた分のお菓子を買ってきて、律儀にも私に返してくれた。その際、「姉ちゃん。いくらなんでも流石に一気に2袋はヤバかった。マジで何も考えれんかったけど2袋はヤバい」と言われた。私は曖昧に微笑みながら、お礼を言って受け取った。
とてもじゃないけど戸棚にはまだ3袋あって、私は5袋いつも食べてるなんて言える雰囲気じゃなかった。