偏差値72.5の有名私大に入学。染めたことのない黒髪バージンヘアに、大して可愛くもなければ人見知り。元恋人からは下の中と言われる始末。
ど田舎から出てきた小娘は、お酒も飲めない18歳で夜の蝶になる。

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周りを山に囲まれた盆地で、周囲を見渡せば田畑ばかりのド田舎で育った。勉強だけはなぜか中途半端にできてしまい、憧れていた大学へ入学。裕福でない家庭で育ち、身の丈に合わない大学へ進学したために、金銭的にぎりぎりの生活だった。

補うために始めた家庭教師と塾講師。家庭教師として生徒さんの都合に合わせて授業の準備をするも、部活などで突然スケジュール変更されることもある。
授業の準備時間は時給が発生しない塾講師。時給の支払われないミーティングなどもあった。費やした時間から計算すると、時給1000円にも満たないことがあった。そんな中、たまたま横浜駅で声をかけられて始めたのはキャバ嬢だった。

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最初の時給は3000円。これまでの時給とは大違いだったが、その分の代償は大きかった。
ド田舎から出てきた芋娘に浴びせられたのは、ブスと自己否定される言葉にお客さまの飲みかけビール。それでも笑いながら、芋くさいですよねーと笑顔を振りまく。黒服に抜かれた後、ロッカーでビール臭くなったドレスの裾をぎゅっと握り、悔しくて泣いた。

先輩の卓でシャンパンが開いても、未成年だから飲むことができない。ヘルプとしてボトルを開けることができず、ロッカールームで先輩から「飲んでくれないと困るんだけど、仕事できないなら辞めれば?」と怒られる。

飲めなくても持ち前の可愛さと愛嬌で、どんどん指名のお客さまをつけて売り上げていく同期。同い年だっただけに、常に比較されているんじゃないかと怯えて苦しかった。生活のためと我慢したが、居場所はどこにもないように感じていた。
お酒が飲めるようになるまで。それまでは修行期間だと思って自分を磨こう。そう決めた。

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キャバ嬢のお仕事は、お客さまから自分を贔屓してもらいお金を使ってもらえるか。お金を使ってもらうためには、お客さまが自分に何を求めているかを見極めて、的確にそれを返すこと。癒しを求められたら癒せるように、楽しい空間を求められたら楽しんでもらえるように、お店の中にそろえられているものを駆使して全身全霊で応える。
話し、飲み、歌い、時にはいちゃついたり色恋だってする。

芋娘の顔面で選んでもらえないなら、その他でがんばろう。未成年で飲めないのであれば、先輩のヘルプに積極的についてトークを学び、週に3回はお客さまにお願いされて歌えなかった歌をカラオケで練習する。そう決めて、全てを上手くこなせるように努力した。
20歳になる頃には、気づいたらそつなくこなし、自分のお客さまもつくようになっていった。気づけば店舗No. 1に入れるようにもなった。

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夜歴はもう9年にもなる。お昼の仕事だけに専念した時期もあるが、それなりのキャリアになった。
今では、どうしたら上手く接客できるようになるか聞かれる立場。たくさんのお客さまについて慣れることだよ、とにっこり笑って言う。メールの返信に迷っていたら相談に乗るし、接客で困っていたらなるべくヘルプをする。

今では接客に困ることはそんなにないけれども、本当はできないことだらけで、ヘルプすらまともにこなせなかった。そこから、自分なりにたくさん努力してここまできた。
でも、そんな泥臭い白鳥のバタ足を見せるわけにはいかないから。強がりで誰にも言えない、私だけの秘密。

そして、夜の蝶として羽ばたいていたことを言えなかった友人たち。たくさんの秘密を言えなかったこと、ちょっとだけ気づいて助けてくれたこと、本当に感謝している。夜を上がるまで秘密にしておくね。