私の隠しごと。心の性と恋愛対象者。

私は生物学的には女にあたる。胸もあるし、丸みを帯びたからだ。けれど私の性別は違う。私の性は中性だ。いわゆるトランスジェンダーというものである。

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いつからだったか違和感があった。親や祖父母は私に女の子であることを求めてきた。かわいいものやピンクで包んで、女性らしくあれと言った。小さい頃はそういうものだと思っていた。でも言語化できるようになって、おかしさを感じた。
ピンクやオレンジは苦手、蒼や紫が好き。お菓子作りは苦手、食べるのは好き。フリルなんて身に着けたくない、シンプルなものがいい。私はYシャツを着たい。シャツの上に羽織った柄物のYシャツ。ネクタイとジャケットでもいい。そんな服が着たかった。女の子らしい服が嫌だった。「君は女だ」と押し付けられている気がして。

自身のからだにも違和感がある。
なんで胸はあるのだろう。なんでついていないんだろう。そんな違和感。高いままの声も嫌で気持ちが悪い。もっと私の声は中性的なのがあう。
これだと男じゃないかと言われるかもしれない。けど違う。あくまで中性なのだ。男であり女で、けど中心にはどちらものはざまの性。それが自認している性なのだ。

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思春期を迎えるとさらに問題が発生した。どうやら人は異性としか恋をしないらしい。私にとっては男性も女性も恋愛対象だ。なんならそれ以外の……無性や中性や両性も。私のようなものをパンセクシャルというらしい。全性を愛する者という意味だ。
とてもしっくりくる。現に女性とも男性とも付き合ったことがある。それ以外とも。その時、隠していた性を明かせたかと言われると怪しいけれど、ね。

私はずっと自身の性と恋愛対象者について隠している。ネットで知り合った数名には明かしているけれど、リアルでなど無理だ。だって親も祖父母も女の子である私を望んでいる。
最初はできるだけ違和感のないようにした。生きづらかったから、大好きな家族の前くらいでと。きっと受け入れてくれると。
私の一人称に一番合う、「自分」や「僕」を使った。でもすぐにやめろと怒られた。自分にあった声にしたくて、低音を出せるよう練習した。けど気持ち悪い声と一蹴される。ようやく自分にあった声に近づいたのに。
体の線が出ない服を好んだ。これには賛成されたがあくまで女性的な服をと言われる。フレアスカートとかね。ネクタイを買うと変な目で見られ、外に行くときは結局スカートをと願われるんだ。
そこには「僕」はいなかった。いるのはただ「誰かの望んだ私」。自分などいなかった。そしてそれを家族の誰も知らない。あんなに好きだった家族なのに、どこか違う人に見えて苦しい。

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二十代になって祖母は私に彼氏はまだか聞いてくる。そろそろ結婚を考えるべきだと。ひ孫が見たいと。彼氏はいないと言っても、子を作る気はないと言っても、その場は引くけどずっと思っているのは知っているのだ。それが女の幸せだと言って。
その期待が重い。すでに私は自分を隠して生きているのに、これ以上何を望まれるのだろう。何を奪うというのだろう。自分はすでに大半を捨てているというのに。いくら家族とはいえ、だんだんそう思えなくなってくる。「僕」に望む形を押し付けるだけの存在に。

私の隠しごと。それは誰かの望んだ私として生き続けていること。もう本当の「僕」はこういうところでしか出せないこと。
いつかこの隠しごとが隠しごとじゃなくなりますように。