スマホでニュースを眺めていた時のこと。
心が落ち込んでいたせいか、それともそういう世の中のせいか、暗いニュースばかり目に入る。交通事故、殺人事件、著名人の自殺……。

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ふと思った。何かしらの事件や事故で、私が死んだらどのように報道されるのだろうか?
名前は報道されても構わない。しかし、顔写真は別だ。
私は自分の顔が好きではなく、写真を撮られることも苦手なのだ。だから、私のスマホの写真フォルダに、自分自身が写っている写真はかなり少ない。

そうなると、どの顔写真が使われるのだろうか?卒業アルバム?就活時に使った証明写真?はたまた社員証?
それは絶対に嫌だ。堅い服を着て、ふてくされた私の顔が全国にあらわにされるだなんて。

私は決めた。遺影を撮ろうと。
もちろん、「遺影を撮る」という目的で誰かに依頼する訳にはいかない。
なので、私は密かに憧れていた「ソロウエディング」をすることにした。

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私は幼い頃から結婚願望がなく、現在もその気持ちは揺らいでいない。
しかし、ウエディングドレスを着ることには憧れていた。CCさくらやディズニーアニメを観て、キラキラしたお洋服に憧れていたのだ。
ドレスに憧れるあまり、「籍を入れて、ドレスを着て式を挙げて、その後に離婚すればいいんだ!」と幼いながら非道な考えを持ったこともある。
憧れのドレスを着て写真を撮ったら、いい遺影の素材になるかもしれない。
私はボーナスの入金を確認し、ソロウエディング撮影の予約をした。

撮影するフォトスタジオには2回訪問した。1日目は打ち合わせとドレス選び。
たくさんのドレスを目にして、眼の中の星が輝いた。この中から本命の一着を選ぶんだ。
当初はコンプレックスだった二の腕を隠すために、レース袖のあるドレスを希望していたが、5着も試着させてもらった結果、ノースリーブでスカート部分がストンと落ちたシンプルなドレスを着ることにした。二の腕は隠すより出した方がスッキリ見えることは新しい発見だった。

撮影場所を選ぶこともできた。スタジオ内にある7、8ヶ所のスペースから5ヶ所も選ぶことができた。なんと贅沢な。1日目にもかかわらず、すでに夢心地だった。

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2日目。写真撮影の日。
人にヘアメイクをしてもらうなんて久しぶりだ。メイクの色味を私の肌や雰囲気に合わせてくれたり、髪型は私のリクエストでラプンツェル風にしてもらった。気分は完全にお姫様だった。

ヘアメイクが終わり、写真撮影開始。あまりにも写真慣れしていなくて、真顔やぎこちない笑顔がなかなか抜けない。しかし、カメラマンさんがとても面白い人で、次第に自然と笑うことができた。
それに、キラキラしたドレスを着た撮影は想像以上に楽しい。スカートをなびかせたり、振り向いてみたり、小道具で遊んでみたり。こんなに無邪気な様子を写真に収めてもらったのは何年振りだろう。
撮影終了。ほかほかした心で帰宅した。

後日、写真のデータが届いた。その数、なんと200枚近く。
届いたデータをクラウドとUSBメモリに保存した。そして、お気に入りの何十枚かはプリントアウトし、手作りのアルバムを作った。
写真の中の私は、ぎこちない笑顔から、自然な笑顔に変化していった。私ってこんな風に笑えたんだなあ。
こうして、ソロウエディングという名の遺影撮影は終了した。

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私がソロウエディングをしたことを知っているのは2、3人の友人のみだ。ただし、遺影撮影が目的だということは伏せている。
家族には口が裂けても絶対に言えない。絶句する姿が目に浮かぶ。

何かあった時のための遺影撮影だったが、やはり何も起こらないでほしい。そして、写真を撮ってもらうことの楽しさを久しぶりに感じたから、写真を撮られることに対して、あまり抵抗を示さないようにしよう。
何事もなく年齢を重ねて、遺影がアップデートされることを願っている。