何か始めてみたい。変わってみたい。
そう思ってた私の前に現れた一つの広告。

『かがみよかがみ』で、エッセイを書いてみませんか?
テーマは「今の『私』をつくった本」。

気づけば電車の中で、iPhoneのメモ帳に言葉を書き出してた。これが始まり。

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読書感想文なんて、学生以来やってない。しかも、文体は自由。
先生のこととか、レポート風にしなきゃとか考えなくていい。私の思いの丈を自由に綴っていい。

一行目はなんて書いたらいいかわからなくてオタオタした。でもいざ書き出してみると、止まらなくなった。私の中にはこんなに言葉が溢れていたんだ、と書きながら驚いたのを覚えている。

そのうち携帯の限界を感じて、パソコンに移動した。普段動画を見ることくらいにしか活用されていないmacに、こんなところに出番があるとは。
キーボードをカタカタ叩いていく。1500字なんてあっという間だった。
夏休みの宿題で出した読書感想文は、原稿用紙の半分を埋めるのすら難しかったのに。

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書き上げるのは思っていたより速かったけど、そこからが長かった。迷っていたのだ。本当に送るのか送らないのか、投稿ボタンにカーソルを合わせては外すことを繰り返してた。

自分のあんな想いを伝えるのは初めてだったから。友達にも親にも言ったことのない想い。
もしかしたら、自分でも気付いていなかった気持ちかもしれない。それがまさか、不特定多数の人に見られるサイトに投稿するなんて!

なぜか少し後ろめたかった気もする。何に対する罪悪感かはわからないけど。友達に言えなかったことへの罪悪感かな。
まあでもどうせ載せられないからなと思ってた。そうそう、記念受験よ、送ってしまえ!と送ったことにただ満足してた。
だからLINEで、「エッセイ採用&フィードバックのお知らせです!」とメッセージが来たときは本当にビックリした。

私の言えなかった想いが、顔も知らない『かがみよかがみ』の編集者さんに読まれた。そして、コメントももらえた。
編集者さんたちにとってはなんでもない、仕事の一環なんだろうけど、私はそのフィードバックによって、抱えてた気持ちの存在を認めてもらえた気になった。嬉しかったし、泣きたくなった。

サイトに掲載されたとき、ドキドキしながら自分でも見に行った。『シャチ』の名前で投稿が一件。私の書いた文章が載ってた。
これが小さな、本当に小さな小さな勇気の思い出。

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初めの頃は、これで最後になると毎回思ってた。LINEから募集テーマがどんどん送られてきて、いやぁ書けないよねぇって思いつつちゃっかりメモに残してた。

そして、書いた。通勤時間で、土日で、友達を待つカフェで。書いて書いて書いて、書いた。
あのとき感じたこんな気持ち、今思ってるこんな想い、誰にも言えなかったあのこと。全部言葉にしてひたすら文字を綴った。

投稿するのには、勇気が必要だった。なんてことないことかもしれないけど、誰かに自分の気持ちを言うことが苦手だから、それを表現することができなかったから。
でもあのとき、広告を見たあのとき、投稿ボタンを押して本当に良かった。こんなつまんない、ぼんやり生きてきた私のつまんない人生の中にも、誰かに伝えられる出来事があったんだって知れた。

変わろうと思ってた自分が、なにかに向かって動き出せることを知れた。私はこれからも気持ちを言葉にしていきたい。ボタンを押すたびに、ちっぽけな勇気を出しながら。