今年の4月、神奈川から北海道に引っ越した。夫の転勤が決まったからだ。
私もそれまで神奈川で会社員として働いていたが、辞めることにした。人にも仕事内容にも恵まれていたので、名残り惜しい気持ちはあったが、こればかりは仕方がない。
もちろん、私は転勤があることを承知の上で夫と結婚している。ここは心機一転、新たな土地で転職をしようと前向きに考えていた。しかし、引っ越しの準備をしていると、どうも体調が優れない。もしかして……と思い、検査をすると妊娠していることが分かった。

子どもが欲しいという気持ちは、ずっとあったのでとても嬉しかった。でも、当然であるが、体調が万全ではないうえにすぐに産休に入ってしまう妊婦を雇ってくれる会社などない。
こうして私は自動的に専業主婦になった。主婦も立派な仕事であるが、大学を卒業してから仕事を辞めていた期間はほとんどないので、長い休みをもらってしまったという感覚のほうが強かった。

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北海道に引っ越してから最初の二ヶ月はつわりが辛く、他のことを考えられる余裕はなかった。片付けも最低限しかできなかった。食べても食べなくても気持ちが悪いし、スーパーに行くと胃が痙攣し始めるので、何も買えずに帰ることもあった。
世の働いている妊婦を心から尊敬した。仕事を辞めていなかったとしても、休んでしまっていたと思う。

しかし、安定期に入ると徐々につわりも落ち着き、元気になった。元気になると時間を持て余したので、まだ慣れない近所を散策するようになった。
最初は薬局やパン屋など、日常生活に必要な店を探す程度だったが、だんだんオシャレなカフェやレストランにも行きたくなってきた。神奈川に住んでいたときも、もちろんそのようなお店はあったが、休日はどこもかなり混んでいたのであまり行く気になれなかった。

北海道でいつでも好きなところへ行ける今、優雅にカフェを楽しむチャンスである。良さそうなスポットをインスタグラムで見つけ、片っ端から実際に行った。お気に入りのお店も何軒かでき、カフェ巡りは私の新たな趣味になった。他にもあまり進めていなかったゲームを攻略したり、レジンを使ってヘアアクセサリーを作ったり、かなり余暇を楽しんだ。

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しかし、のびのびと過ごすあまり、昼間働いている夫に対して申し訳ないという気持ちもあった。また、カフェやゲームに使うお金は自分の貯金から出していたものの、このままではお金は減る一方だと思った。そこで、楽しくできる範囲で在宅ワークを始めることにした。ネットで探してみると仕事が案外たくさんある。もともと文章を書くことが好きということや人事の仕事をしていた経験を活かして、ライティングや企業の採用業務の代行をするようになった。
これなら体調が悪いときでも家で休みながら仕事ができる。仕事に集中する時間を作ることで、1日のメリハリもつく。会社員のときほど稼ぐのは難しいけれど、自分のお小遣いや赤ちゃんに必要なものを買うくらいの報酬はもらうことができた。何なら出産後も少し落ち着いたら続けられそうだ。

当初は長い休みをもらってしまったと思っていたけれど、図らずも新しい趣味と仕事を見つけるいい期間になった。ストレスもあまり溜まらず、お腹の赤ちゃんもすくすくと育っている。
来月にはこの休みは終わり、とても忙しい毎日を送ることになりそうだが、この期間を糧に育児も仕事も頑張っていきたい。