初めての彼氏、と呼んで良いのか分からない人がいる。2週間のスピード破局だったからだ。

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中学時代、学年中の女子に片っ端から告白する男子がいた。彼とは学校で直接話したことはなかった。だが、女友達を経由して連絡先を交換した。
性格や振る舞いが、私とは真逆な彼。だからこそ、彼の生き方がうらやましかったし、彼のことを知りたかった。
まだLINEが登場していない時代、メールでやり取りをした。

「俺のこと知ってる?」
「知ってるよ。私のことは知ってるの?」
そんなやりとりからスタートした。その後半年間、彼には他に彼女がいた。気が向いた時にお互いに連絡をする程度だった。
ある日、彼が彼女と別れた、との噂が流れた。興味本位で彼にメールした。

「彼女と別れたの?」
「うん。次は君だよ」
混乱したものの、悪い気はしなかった。女好きという噂がありながら、私のことはただのメル友で、女として見ていないのか、と感じていたのだ。
正直なところ、私が彼を好きかどうかは曖昧だった。だが、当時は「初めての彼氏」が欲しかったのもあり、私達は付き合うことにした。

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初デートは、市民体育館で卓球をした。楽しい時間だったが、問題が発生した。デートの帰り道を、母の職場の人が偶然目撃していたのだ。
母から「あんたが男の子と2人で道を歩いていた、って聞いたんだけど、本当?」と聞かれ、とても恥ずかしかった。人生初めてのデート現場を、知り合いに見られた上に、親に伝わるなんて。さらに、同級生にまで目撃されていた。世間は狭い。咄嗟に「◯人で遊んでいて、帰り道がたまたま同じだっただけだよ」と嘘をついて、その場をしのいだ。

「次のデートは、図書館で一緒に勉強する?」
デート後、彼はワクワクしながら次のデートの計画をメールで送ってきた。嬉しかった。だが私は、今まで男っ気無しで生きてきたのに、彼氏ができた途端に、いつもと違った世界に足を踏み入れたようで、生きづらさを感じていた。

元の状態、彼氏のいない、フリーに戻る方が楽だ。気持ちが固まり、彼に「ごめん、やっぱり友達に戻りたい。別れて下さい。短い期間だったけど、ありがとう。これからも宜しく」とメールを送信した。彼からは「分かった」と返事が返ってきて、別れた。
彼との関係があっさり終わったことに胸を撫で下ろした。

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1ヶ月後、同じ部活の子が私にこっそり話し掛けてきた。「あいつと付き合ってたんやろ?あなたは好きでもない男と付き合うんだね。最低」と言い放たれた。
情報源は彼。彼は私に振られたことを消化しきれず、その子に話したのだ。私の行動は、周囲から見ると「軽い女」だった。自業自得だがショックを受けた。

進学した際に「彼氏はいたことある?」と聞かれたら「ない」と答えていた。彼との日々を「付き合っていた」と主張していいのか、疑問だったのだ。
だが、この歳になってみて振り返ると「私は当時、彼が好きだった」と思うようになった。
具体的に「ここが好き!」という点は思い浮かばない。だが、思い返した際、胸の奥がほんのり温かくなるのだ。

一度だけのデートだが、その場はドキドキしていたし、異性として彼を見ていた。その事実を自覚した際、彼と腹を割って話した上で、交際を続けるか否かを判断したら良かった、と嘆いた。
また、彼を好きだったから良かったものの、それは結果論である。生理的に受け付けないタイプでなければ誰でも良い、のような考えにならないように気をつけたい。

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以降、決めたことがある。
「次に異性と付き合う際は、付き合う前から好きな人としか付き合わない」。すると、「私が好きな人は、私を好きではない。私を好きな人を、私は好きにはなれない」。このような、一方通行の恋愛や妄想ばかりが増えた。交際に発展することは実は「奇跡」だと思い知った。
経験と学びを与えてくれた彼、ありがとう。