あなたとのことは誰にも秘密にして誰にも悟られるべきじゃなかった、なんて言ってしまうのはずるいでしょうか。
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車の免許合宿で鳥取県に行きました。地元から離れて2週間、友だちと慣れない地とはじめての運転席に胸を弾ませたのは夏のことでした。意外にも涼しいというのが、車校の印象でした。
山に囲まれ、近くには海があり、毎週末イベントが行われ、私たちが通ってはじめての週末は大縄大会でした。出場者を募る先生と既に仲良かったのでトントン拍子に知らない子たちとグループになり、優勝の焼き肉無料を目指すことになりました。
私たち以外は本当に知らない子たちで、はじめましてで一緒に縄を跳びました。回していたのは男の子でした。跳ぶのが女の子だけだったのは女子は点数が3倍になるからでした。
あっという間に優勝し、焼き肉だとはしゃぐのは私だけで、みんな照れていました。2日後のお昼は焼き肉をみんなで食べましたが、やはり誰ともLINEを交換するほどではありませんでした。そして縄を回してくれた男の子2人は、その翌日に卒業でした。少し見送りましたが本当にそれだけでした。
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その車校にはいろいろな制度があって、誰かにお手紙を出すことができるのでした。大縄大会のときはありがとう、と男の子たちから手紙が届きました。ありがとうという術もないので心の中でつぶやきました。
その日の夜だったでしょうか。一緒に跳んだ隣の部屋の女の子が「あの子が君のLINEほしいって言ってるんやけど、教えてもいい?」とのことでした。え?と思いつつも満更でもなかったので交換しました。私のルームメイトは、少し嫉妬めいたからかいを口にしました。
驚きつつも、ぎこちなくメッセージのやりとりをしましたね。ルームメイトはお互いに意中の相手とのやりとりの果て、布団の中で電話を始めました。そんななかひとりで眠れるわけもなく、あなたとやりとりを続けているうちにこぼしてしまったのは「電話してるのずるい」でした。それから「よかったら、電話する?」と言ったのはあなたでした。
小さな囁き声の私とあなたの電話は、私が卒業するまで続きました。帰ってからはじめての電話で「やっと普通の声聞けた。なんか嬉しいね」と言うので、とても可愛らしく思ったのは、あなたが年下だったからではありません。
それから住んでるところが電車で1時間ほどだった私たちは、ちょうど間でときどき会うようになりました。あなたのかわいさに、顔に、声に、笑い方にどんどん引き寄せられたのは紛れもない真実です。急に会うことや泊まることも増え、街で手を繋いで、カラオケでキスをして、そんな2人はとても穏やかに見えました。
何度も好きだと言ってくれました。しかし、私は応えられませんでした。
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旅行にも、一度だけ行きましたね。ほとんど忘れてしまったけれど、やっぱり今でも些細なことを覚えています。
私はほんとうにあなたのことが好きでしたが、大切な恋人を捨てるわけにはいきませんでした。あなたを選べなかったことを悲しんだことがありました。
ときどき連絡してしまいましたね。それはあなたも。今でもすこし思い出してしまうのは、あなたを私のものにできなかったからでしょうか。それともなにかあるのでしょうか。
この時期になると、ラジオはスピッツの「楓」を流します。スピッツはあなたが一番好きな歌手でした。聴くたびにあなたを思い出してしまいます。
あなたはどうですか。ちゃんと好きなひとに幸せにしてもらえていますか。ちゃんと私のことは忘れていますか。そしてときどき思い出していますか。