飛行機を降り、何度も歩いたことのある通路の先に、懐かしい光景が広がる。
卒業して以来久しぶりにこの地に立った。ゆったりとした空港も、電車で通り過ぎていく町の名前も、あの頃と全く変わらない。気づけばふるさとのように安心している自分がいた。

大型商業施設に並んだ駅で乗った女子3人組が、私の真向かいに座る。彼氏持ちはどの子か、2対1に分かれるとしたらどの組み合わせか……。人間観察の癖をついつい隠せないまま、私は自分の青春を少しずつ思い出していた。
この禍中、多少のリスクを感じながら旅に出た。それは学生時代の友人に会うためと、震災遺構を訪ねるためだった。
1か所にとどまらず移動し続けたのは他でもない私自身だったのに、まるで勝手に舞台が暗転し、明るくなり、場面が切り替わっていくという、私を中心に進んでいく三部劇のような連休だった。

◎          ◎

A子はローソンの前にいた。「なんとなくこっちから来る気がした」と超能力めいた発言で私を驚かせた彼女とは、一緒に受験勉強をした仲だ。
学科は違えど講義が結構かぶっていて、いつも前の席で静かに粛々とノートをとる彼女は気になる存在だった。共通の知人がいたのも後押しとなり、私から声をかけて親しくなった。

チャイナ服の可愛い店員さんに癒されながら話す、仕事や恋のこと。A子と私の間でぐらぐらと煮立つ鍋に、ずっと眠らせていた想いがとけていく。A子は私の知らないところで「恋愛」、というよりも「男との付き合い方」を学んでいた彼女はおそろしいくらいに気持ちの切り替えが早かった。悔しさとみじめさで頭が冴えわたった夜もあっただろうが、冷静に語る姿に後を引く悲しみは1ミリもなかった。

そんなA子に隠し事は出来ない。
「認知されてた、私」
隣の席の男性2人組に筒抜けの中、話を続けた。
「最後の最後に名前呼ばれたの。○○○って。アニメキャラと同じ名前とはいえ、こんな珍しい名前わざわざ言う必要ある?」
A子は真剣に聞いてくれた。
「それは絶対認知されてたよ。よくファン辞められたね」
「後ろ髪引かれたけど、ここで辞めなかったら自分をダメにすると思った」
真面目な彼女に開けっぴろげに語るうちに、凝り固まった記憶のしこりが小さくなり、それはやがて手に携えて上手に付き合えるサイズになっていった。
「婚活、頑張ろうね」
A子の声は明るかった。
私たちの共通テーマはしばらく、婚活と恋愛のままかもしれない。そのテーマにいつ終わりが来るのか今はまだわからないが、苦楽を共にするという言葉が似合う私たちには、もれなく次の難題と突破口が待っているだろう。仕事も恋もけして順風満帆ではないけれど、人生って笑いをこらえきれないものなんだなぁと思えた夜だった。

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2日目は、昔何度も待ち合わせた駅の光の中でB美を待った。現れたB美は本当に変わってなくて、学生時代に戻ったようだった。
進学してまだ日の浅いある日、彼女は「隣、座っていい?」と正攻法で私に声をかけた。人見知りするタイプのB美が話しかけやすいオーラを放っていたという事実に、後々振り返ってよく嬉しくなったものだ。

私たちの語りを表すなら、「キャッチボール」が合っているだろう。正直話す内容は毎度あまり覚えていないが、自分が届けた分だけB美から言葉が投げかけられる、心地良いスピードとリズム。それは同じ歩幅の二人三脚にも近い感覚だ。
B美と一緒にいて疲れないのは、彼女が空気みたいだからだと思う。悪い意味ではなく、当たり前のように仲良くなり、これからも友人でいることが自然なのだと信じられる関係。だから、B美とは旅をしても疲れない。
今回の休日で唯一旅らしい旅を共にしたのが彼女だった。私は彼女に気を遣わず、執筆中の小説の取材として震災遺構を見学した。彼女もまた、真面目な視線を残された傷跡に向けていた。

ただ1つ反省したのが、B美が私と別れる最後まで秘密ごとをしていたことだ。おそらくその日は私が一方的に話してしまい、キャッチボールが途中から千本ノックぐらいになっていた。
根が大人しい彼女の話をいかに引き出せるかが私の人間としての成長なのだ――。夜、1人ホテルでLINE画面を見つめ、そう強く思った。

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颯爽と通り過ぎる街並みと懐かしい音楽。「解散してから髪切ったよ」とハンドルを握るC香と私は、往年のアイドルの話で花を咲かせた。昨日までの雨と曇天が嘘みたいな秋晴れだった。
C香と私はとある教室の片隅で親しくなった。進路が違ったから顔を合わせることは少なかったが、4年間なぜか交流が途絶えず、長期休みは必ず一緒に出かけた。しっかり者で機転のきく彼女の夢が叶わなかった時、「なんであの子が受かってC香が落ちるの」と嘆いたものだ。

私たちは同じステップにいる――。三人の友人に会って最も今の私に近いと感じたのが、最終日のC香だ。
転職して満足しているものの、一生このままでは嫌だという危機感。やりたいことがはっきりとあって勉強や努力をする日々。そして婚活。前向きに夢を語るC香は私そのものだった。
彼女を応援するということは、私自身のためにもなるだろう。逆に、C香の目に私はどう映ったのだろうか。私よりも何倍も真面目に生きるC香を励ますことができたなら、とても嬉しい。
私は自分の処女作を、最初にC香に届けるつもりだ。彼女には夢を夢のままで終わらせない覚悟がある。そんな素晴らしい読者に自分の世界を届けたいという熱意が、私の頑張る理由になる。
悲しいことの先には楽しいことがあるからと、私たちのアイドルは教えてくれた。1人では信じられない未来も、優しい輪の中にC香がいてくれるから信じられる。そう思う。

彼女たちは総じて真面目だ。真面目だね、と言われることが多い私が言うのだから本当だ。
一体その真面目さはどこから生まれるのか。きっと彼女たちが生きるあの地にしか吹かない風や、あの地にしかない温もりが少なからず関係していると思う。
他の地域にはない「生きることへの真面目さ」が、あそこにはある。偏見のような確信をもった、穏やかな秋の日々だった。