ラーメンは私の大好物だ。
地元は醤油ベースのスープが多く、醤油ラーメンが自分の中では定番だったが、県外のラーメンが近所で気軽に食べられるようになってから、豚骨ベースのラーメンにもハマりだした。地域によって味付けやスープの濃さなどが異なるのもラーメンの“推し”ポイントだ。
最近、自分の中のラーメンランキングが入れ替わった。現地で食べた東海地方の豚骨ラーメンで、一口目のスープから衝撃的な味だった。
こってりしすぎず、私にはちょうど良い濃さだったし、チャーシューは薄めでも味がしみこんでいてとても美味しかった。細めのちぢれ麺で、そこも違和感なく歯ごたえもある、食べていて飽きない一品だった。地元の一番推しのラーメンと並んで良い勝負である。
ラーメン好きなあの人と過ごした幸せな時間
私がそのラーメンを食べにわざわざ遠方まで足を運んだのには訳がある。そのラーメンは遠距離恋愛中だった元彼が好きな味で、彼の地元に遊びに行った際にお店に連れて行ってくれたのだ。
この味はきっといつかいつでも食べられる味になると、心のどこかで思っていた。しかし、私たちの関係はある日突然解消された。
かなり距離が離れた遠距離恋愛にもかかわらず、私たちが寂しさを感じずにいることができたのも、毎日のLINEでのやりとり、頻度は減ったものの約週1ペースの電話、そして毎月の記念日をお祝いし合うことをおざなりにせず、相手を不安にさせるようなことも無かったからだと思う。
気を遣わず何でも話せる。お金のことだって話せる。お互いの相談に乗って、そっとしておいた方が良い時はなんとなく察してそっとしておく。それがまた居心地の良さにつながっていたように思う。
私にとって彼は、彼にとって私は、すっかり生活の一部になりつつあって、交際当初から、将来のことも意識して話していた。私はそのうち彼の地元に行って生活するんだと思っていた。
この人と結婚するんだと思った。彼もそうだと思っていた
この年になると、周りが次々と結婚し、子どもを作って幸せそうな写真をSNSに上げたところに遭遇する。そのたびに、私たちは私たちのペースでいくんだと、自分に言い聞かせていた。
それでも素直に祝福できない自分もいて、しんどくなってログアウトしたこともあった。知らず知らずのうちに焦っていたんだと、今となっては思う。
男の人は結婚に対してプレッシャーや不安を感じてしまうらしいと何かの読み物で読んだことを思い出し、本当はうまい言い方で聞きだすべきだったのだろうが、私の性格上ストレートに伝えてしまった。
交際して1年経った頃、彼に恐る恐る「私たちいつ結婚しようか」と尋ねてみた。
完全にタイミングを逃したというやつだった。その質問を機に、彼は1年経って変わった自分の今の気持ちに気付いてしまった。
この先結婚している自分が想像できない。彼女のことを気にかける余裕が自分の中にはもう無い。嫌いになる前に別れた方が良い、と言われた。
数日考えて改めてビデオ通話で話をしたが、結果、恋人関係は解消することがベターだという結論になった。
彼のことは忘れても、あの味は忘れられない
その時は、友だち関係に戻りたい、ということでお互いに了承したが、私の中ではまだ煮え切っていない。置いてけぼりにされた私の彼に対する気持ちに気付くたびに苦しくなる。あんなに毎日連絡のやりとりをしていたのに。
その日を境に友だちとして物理的距離の離れた友人とどんなやりとりをして関係を続けていけば良いのか悩み続けている。
やっぱり気の迷いだったのだろうか。私たちの中に結婚という価値観さえなければ、仲の良い関係を続けられたのだろうか。そもそも友だち関係に戻るなんて可能なんだろうか。
友だちとして会うことはできるのだろうか。その時にもう一度あのラーメンを食べたい。いや、一人で行ってラーメンを食べたっていいんだ。
あの豚骨ラーメンをもう一生食べられないなんて信じられない。でもきっと、テーブルの向こう側に座って同じ味をいただいた人のことを思い出してしまう。
もう彼を完全に忘れてから行こうか。でもきっと思い出して連絡してしまう自信がある。連絡先、消そうか。
私にとってはあの豚骨ラーメンを食べることの方が大事だ……。