「自分のブランドを持ちたい」
この夢は、服飾系の専門学校に在学した人の多くが持つ夢の一つだと思う。だけど社会に出ると、夢を現実にすることの難しさや面倒臭さ、体力の無さなど色んな理由を見つけては、持っていた夢を忘れたり手放す人が多い気がする。
そんな中で、なぜか私は26歳の今までその夢を持っていた。
アパレルデザイナーとして会社に勤めながらも、どこかで「いつかは自分のブランドを」と願ってしまう自分がいた。
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デザイナーとして長く働き続けたい私にとって、4年半働いても何のステップアップも感じられない会社に少しずつ不満を持ち始めたのが、昨年ごろから。ほとんどの業務をこなせるようになって、服を作ることの基本は出来るようになったけれど、このまま同じような毎日を続けるのは嫌だった。
「スキルアップしたい」
「新しいやり方や、別のやり方も学んでみたい」
そんな風に思い始めた。
「転職」か「ブランド立ち上げ」か。2つの選択肢で迷って迷って、ようやく答えを出したのは「どっちもとりあえずやってみよう!!!」だった。
どちらが正解か分からないけれど、進めているうちにきっとどちらかには辿り着ける。そう信じて転職活動とブランド立ち上げの準備を同時進行で進めていた。
そんな中で先に結果が出たのは「転職活動」だった。
内定をくれた会社は私にとってはとても好条件。年収も上がるし、職場も近くなるし、名の知れたブランドで今よりも大きな会社だ。「大きな会社だから良い」ってわけでは決してないけれど、ある程度の成果を出している会社で働くことはきっと何か新しいことを学べるはずだと期待大。
転職活動を終えてひと段落したと思ったけれど、大量に残した有休の消化期間に海外旅行の予定を詰め込み、退社手続き、入社手続き、あれやこれ……と時間はどんどん過ぎていく。
イレギュラーなことが沢山押し寄せてきてタスクは盛り盛り、頭はパンパンだ。
休みの日は、頭も身体も休ませたい。そうこうしているうちに新しい会社の入社が始まったら、慣れるまではきっと毎日疲れ果ててしまうだろう。
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多忙な毎日の中でずっと見ないフリをして、端に置き去りにした「ブランド立ち上げ」というタスクにようやく向き合う。
そうして私は気付いた。「今は出来ない」ということに。
学生時代からの大きな夢。いつか叶えたいと今でも思う大切な夢。
それでも現実的に考えると、今の私には最優先事項にはできないのだ。
一社会人として新しい会社できちんと実務をまっとうすること、このタイミングだからこそ行ける海外旅行に安全に行くことやそれの準備、長期休暇だからこそ出来ること……。
悔しいけれど、ブランド立ち上げに時間を割く余裕が無かった。
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無理矢理にでもスキマ時間に進められないかを考えたりもしたけれど、そんなふうに雑にやるのは嫌だった。
誰にも縛られたくなくて、自分だからこそ出来る事を自分のペースでじっくり進めたい。それも含めての「夢」なのに、こんなに余裕の無い自分がやることではないと思った。だからこの選択はきっと正しい。そう言い聞かせる。
夢を先延ばしにするのは悲しいけれど、今の私には最善策だと信じて進む。
「大人になっても未だに『叶えたい夢』があるのは素敵だ」と自分に言い聞かせながら、新しい場所でまた輝いていこうと思う。