2022年も残りわずか。
銀杏の葉が黄色く色づいてきて、秋晴れの青空がまぶしい日々。
赤や黄色に色づいた木の葉っぱの隙間から見える太陽がまぶしくて、街中を行き交う人々はどこか少し忙しそうで、クリスマスや年越し、帰省など予定を詰め込みたくなる、冬独特の雰囲気がしている。
立ち止まって初めて、東京でも、青空がきれいに見えることを知った。
立ち止まって初めて、東京でも、星が見えることに気づいた。
平日の昼間。本来私は仕事をしている時間帯に、こうやって空と景色を観察しているのにもある訳があった。
◎ ◎
ある日、私は、人生で初めて「E:要精密検査」という文字を見た。
健康診断ではいつもA判定だったから、今回も問題ないだろうと思っていた。
花粉症とアレルギーが多いくらいで健康には自信があったし、体調不良で仕事を休んだこともなかったから、人事課から届いた健康診断結果は、会社の自分のデスクで開けてしまった。
目に飛び込んできたのは「E:要精密検査」という文字。私は何を見ているのか、何を読んでいるのか、あまりに予想外のことで、理解ができなかった。
ただ、血液検査の数値がおかしいということは分かった。基準値を大きく上回る白血球数。
とりあえずトイレに駆け込んで、医療関係の仕事をしていた母に写真を送って、「これってどこで検査したらいいの?」とLINEした。
その日は仕事中も頭が回らなかった。
「白血球の数値が高い 病気」と検索しまくったし、テレビやドラマで聞く「白血病」という言葉が頭をよぎった。
「内科なら血液検査できるから。すぐに予約して」という母からの返事に従う。
血液の精密検査なんてしたことがなかったから、ネットで検索して、職場近くの内科を予約した。
◎ ◎
検査結果が出るまでの数日間。そわそわしていたし、夜はあまり眠れなかった。
眠れない夜、普段は聞かない「余命10年」という映画のサウンドトラックを聞いてしまった。
「余命10年」というタイトルからも想像できるように、これは余命宣告された主人公の、実話に基づくストーリーだ。
この儚いストーリーが私は好きで、原作を読んだ時も涙が止まらなかったし、映画館で見た時もエンドロールが終わるまで泣いていた。
サウンドトラックを聞くと、映画のシーンを思い出してしまう。
ただの精密検査であって、余命宣告でもないのに、音楽を聞きながら、なぜか布団の中で少しだけ泣いていた私。
人生は長いと思っていたのにも関わらず、健康診断の結果が思いがけないものだったという、ただその一つの出来事が、私の心を激しく揺さぶった。
検査の結果、「白血病」ではなかったけれど、血液に関する病気であることが分かった。
治療を受ければ大丈夫な病気だけれど、長期的に付き合っていく必要もあるようだ。
◎ ◎
2022年もラストスパート。
やり残したことをやり遂げようと、もっと頑張りたいことに取り組もうと、今年の1月に心に決めたことをきちんと実践しようと、頑張ることはしない。
もう頑張らないことにしたい。
少しだけ病気であることが分かった今、もっと一瞬一瞬を大切に生きたいと思ったから。
人はいずれいなくなってしまう。命は有限だからこそ、私たちの人生は美しいのだ。
責任感がある私だからこそ、
「せっかく任された仕事に穴をあけたくない」
「私がリーダーなのだから、私がいないといけない」
「私宛てに届くメールがいっぱいある」
と、つい仕事を頑張ってしまう。有給日数だけが無駄にありあまっている状態。
だから、次のことを決めた。
これからは、週に1回はきちんと定時で上がること。
これからは、月に1回は、平日に早上がりもして、美味しいご飯を食べて、大切な人と会って、笑顔でゆったりと過ごすこと。
◎ ◎
病気になって初めて知った、私の時間はかけがえのないものだと。
毎日通勤電車に乗っていると、つい早歩きをしてしまうけれど、朝ごはんを食べる時間だって、お風呂に入る時間だって、大切なんだ。
年末が近づくからといって頑張りすぎていた私にさよならをしたい。
幸運にも、家族や友人は良い人たちばかりで、私は本当に環境に恵まれた。
毎日「良い夢を見てね」とLINEしてくれる大切な人だっている。
「今日は月が綺麗に見えるよ」と月の写真を送ってくれるその人は、遠くにいても隣にいなくても、まるで私を寝かしつけてくれているようで、だから今日の仕事帰りも空を見上げて月を見つけると嬉しくなる。
大切なあなたが思い浮かぶから。
病気ともきちんと向き合っていきたい。健康とは言い切れないかもしれないけれど、笑顔で長生きしてやるんだ。