時は遡ること3年前、縁あって知り合った生命保険のエリア担当と行ったご飯屋での味が、今でも忘れられない。
山口県の宇部にあった『てなもんや』というお店だ。私が転勤で宇部を去った1〜2年後に、コロナ禍の影響を受けて店じまいをしてしまったそうだが、今でも宇部のことを思い出すと必ずと言っていいほど『てなもんや』のことを思い出す。

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昼は日替わりランチ、夜は店主に事前にリクエストしておくとその料理と、「いっぱい食べて」というメッセージもあったのだろう、どんどん料理を作ってはふるまってくれた店主だった。そんな店主のことを、現地の母という意味合いも込めて「おかん」と呼んでいた。
おかんは基本1人でなんでも作っちゃえる、いわば魔法使いみたいな人だった。最初に生命保険のエリア担当に連れられて行った時はランチを頼んだが、そのボリュームに度肝を抜かれた。
その上、「前日に作ったというおでんもよかったら食べて」と追加料金なしで食べさせてくれたのだ。味は勿論、とても美味しい。ボリューミーでありながらも800円というリーズナブルさにも驚いたが。

このクオリティーにびっくりした私は早速、宇部の店舗でも比較的仲が良かった同僚3人を誘って、夜ご飯を食べに『てなもんや』に行った。お客さんの予約がないと休店日にしてしまうそうで、早めに連絡して予約できた日に私と前述の同僚の4人で店に行けた時は嬉しさしかなかった。
夜に『てなもんや』に行っても、おかんのおもてなしは健在。ある日は鍋をふるまってくれたし、ある日は他団体さんと一緒にご飯をふるまってくれた。そして、必ずデザートが付いてくる。
数にして5〜6品はふるまってくれたおかんは、若手社員枠だった私たちにとにかく優しく、生ビール中ジョッキで呑むメンバーには1,000円で、主にハンドルキーパーをしていた私や他に酒を飲まないメンバーには「夜ランチ」と称して、お昼と変わらない800円でお腹いっぱいご飯をご馳走してくれた。

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割とコロナ禍の世の中になってもタイミングさえ合えば行っていた私たちだったが、去る2020年6月に私の岐阜への異動が命じられ、引っ越したら『てなもんや』に行けなくなるということが発覚した。
そのなか、店舗の支店長から店のメンバー全員で食事に行く機会があり、その店舗を選ぶのは異動が決まっている私ともう1人の同僚ということになった。

勿論行き先は『てなもんや』。同僚も承諾してくれたので、アポイントをとってメンバー全員で行った。おかんには私が最後になるかもしれないことは予約の時に伝えていたから、会った時にすでに目頭が熱くなったのを憶えている。
そんな私をよそに、初めて来たメンバーたちは、家庭料理であり私たち先に通っていた4人が大好きなおかんの味に舌鼓を打ち、食事会も盛会に終わったので、『てなもんや』に皆で行けてよかったなぁ、と今でも思う良き思い出だ。

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前職の会社を辞めて埼玉に帰ってきてからもうすぐ1年が経つが、『てなもんや』を超えるような料理店は未だに見つかっていない。
今思えば、なんで数あるご飯屋・居酒屋があったのにも関わらず、ずっと『てなもんや』に足繁く通っていたのだろうかと思う。
勿論、私はおかんの作る料理が大好きで、尚且つお店の良さがとても大好きであったからよく通っていたが……。一緒に行っていた3人の同僚も少なからず同じことを考えていたのだろうか……?

そんな『てなもんや』がコロナ禍の影響で閉店してしまったことはとても悲しい。もしまたご縁があって宇部に旅行できたとしても、『てなもんや』にはもう行けないのかと思うと、一抹の寂寥感を覚える。
もしまた宇部に行くことがあったら、寂しいけど『てなもんや』みたいなお店を探して知り合いに紹介できたらいいな、と思う。そして、今は宇部から1,000kmくらい離れた埼玉は加須にいるので、加須近辺で『てなもんや』みたいな居心地の良いお店を探してお気に入りの1店舗を見つけたい。