別れた恋人との関係性に、正解はあるのだろうか。
別れの理由によるけれど、ヨリを戻してまたお付き合いをするという選択肢ももちろんあると思う。
ただ、「別れ」というのは、ある関係性に終止符を打つことであって、新たな関係性を始めようとする気持ちがお互いにない限りは、友達にも戻れず、気の合う仕事仲間にも戻れず、ただ空中に浮かんだ感じの、名もない関係性になる。
「恋人」という濃密な関係性が、たった一瞬で、「ただの知り合い」に変化する。

私は、別れた恋人とも、友達や相談相手として、たまに会って、一緒にご飯を食べて、笑いあってという関係性を築いてみたかった。
だけど、私の周りには、別れた恋人と円満に仲良くできている人がいなかった。私と同様、全く音信不通になるか、数か月に一回連絡はするけれど会わないというパターンがほとんどだった。

だから、ある別れを経験したとき、私は「元恋人とも友情を築ける」証明をするべく、その第一人者になろうと思った。だけど、結局上手くいかなかった。

◎          ◎

その相手は、私の人生の1/4以上の時間、仲良くしてくれた人だった。
友達ではなく、恋人関係になったとき、他のどんな恋愛関係よりも「別れたらつらい」ことは分かっていた。あまりに信頼関係が深すぎて、今さらただの友達関係に戻ることはできないから。

「こうなるって分かってた」と言う私に、彼は「分かってたところが、かおりんらしいよね」と言う。
たまに近況を報告しあう良き相談相手であって、お互いの幸せを願えたらと思っていた。
そんな関係を築きたかった。
だけど、別れから数か月経って「良き相談相手」になることなんて、無理だと分かった。

友達だった頃は気軽に話せていた話題について話せなくなった。
「最近良い人はいるの?」
「うん、この前その人とイルミネーション見に行った。付き合ってちょうど3か月目」
お互いの恋を応援する会話さえ、出来なくなった。

文字を何度も消したり、打ったりを繰り返さなくても、もっと気軽にメッセージを送れていたはずなのに。「送信取り消し」なんて使わなくても良かったはずなのに。
仕事のことも、恋愛のことも、家族や友人のことも話していたのに。
ただ「今日は寒いね」というたわいもない日常会話が楽しかったのに。
恋人というパートナー関係になって、まるで家族みたいに信頼しあえる関係性を築けたのに。

◎          ◎

将来の方向性が合わないから、好きだけど別れた2人を待ち受けていたのは、今まで知っていたお互いの日常のストーリーが共有できなくなった世界だった。
仕事終わりには「お疲れ様」とメッセージを送り合っていたのが、お互い気まずくて、「もう付き合っていないから」という理由で気を遣ってしまう。

「年越し前には一回くらい会おうよ」と別れ際では言っていたのが、別れて数か月後には「会うのは良くない気がする」という話になる。
彼に対しては未練もないし、良い人生経験だったなぁと思うくらいだけれど、私と別れて選んだ相手とはうまくいっているのかなと少しだけ気になる気持ちはある。

友達だった頃は気兼ねなく恋バナができたのに、付き合って別れてしまった今では、恋は「言えるけど、お互い聞きたくない、聞かない方が良いテーマ」になってしまった。
会社の健康診断で、人生で初めて見た「E:要精密検査」の話も、その後血液の精密検査を受けて分かった病気のことも、別れる前なら、友達だった頃なら言えていたと思うけど、「ちょっと病気になって、長く付き合う必要があるけど、でも元気だから」が言えない。

何でも言えた相手が、「言えない」相手になってしまった。
付き合っていた期間は1年もないのに。
長い人生のなかのただの1年間を一緒に過ごし、その関係性に終止符を打っただけで、それまでに築き上げた関係性はあっという間に崩れてしまい、残されたのは、「大丈夫、元気にやってるから」という言葉で飾られた関係性だった。
本当に大丈夫なのかは分からない。私にも、彼にも。

◎          ◎

過去のことは過去に置いておこう。
ただ、今の私には、美しい空を見上げるたびに、「今日もいい青空」と報告したくなるような、心の支えになるような相手がいてくれる。
その人とは、元恋人と別れたあとに出会い、普通は友達から関係性が始まるべきだけれど、なぜか最初から特別な存在だった。「仕事で○○が忙しくて」と愚痴をこぼすには時間がもったいないほど、愛おしいのが今のお相手だ。
セフレや浮気、色々あった女の子である私が、またこんな純粋な関係性を始められたことが奇跡みたいだ。
そんな奇跡と幸せを今は大切にしたい。