9月上旬のある週末。
「そろそろ髪の毛切りたいなぁ」が2か月くらい口癖になって、仕事の忙しさや、夏の暑さを理由に、ヘアカットを先延ばしにしていた。
長い間、黒髪ロングのままにしていたけれど、ある人と付き合い始めた頃に、バッサリと髪を切って、今ではロゼブラウンのセミロングだ。「イメチェンですね、かわいくしちゃいましょう!」と美容師さんに言われながら。

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髪の毛を鎖骨くらいまでの長さまで短く切りたくなって、ヘアカットを予約しようと思ったとき、なぜか、大学生の頃から通っていた行きつけの美容室ではなく、急に新しい美容室に行きたくなった。友人に勧められた美容室でもなく、ただネットで調べて、時間と場所とコスパが良さそうだというだけで、ヘアカットを予約した。

ヘアカットを予約した後のある日。
私は今までの20数年間の人生で、一番美しい恋愛の終わり方をした。
「女の子は失恋すると髪の毛を切る」と言うけれど、先延ばしにしていたヘアカットをしようと急に思い立ったのも、新しい美容室を選んだのも、きっと前兆だったのだと思う。
別れる予感がしていた。だって、彼の感情と愛情は私のものだけではなかったから。もう別の女の子に対しても向いていたから。別れた時の傷を最小限にとどめるために、私は、実はこの1か月間くらい別れるための心の準備をしていたけれど、やっぱり儚くて、つらくて、胸が苦しくて、号泣した。
なぜか、私がお付き合いしていたパートナーは泣きながら彼の気持ちを数日間かけて手紙に綴ってくれて、それは彼が私にくれた最初で最後の手紙になった。
なんて、皮肉だ。私は、彼とはまだ友達だったときにも、お付き合いをしていたときにも、手紙を書いたことがあるのに、初めてもらう手紙が別れに関することだなんて。

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私たちはお互いのことが大好きなのに、別れる決断をした。
言い出してくれた彼には感謝している。
きっと普通のカップルならもっと早く別れているのかもしれない。正直嫌な思いも、お酒で紛らわそうとしたもやもやの感情もたくさんあった。そのすべてをきちんと消化して、お別れの準備ができたのも、彼との信頼関係のおかげだと思う。
この「好き」という感情が、愛なのか、愛情なのか、恋愛感情なのか、人間として尊敬できるという意味なのか、分からない。
大学生の頃から、かっこ悪いところも、バリバリ仕事をしているところも知っていたし、海外に住んだ時や、新しい環境での人間関係、恋愛関係で心が弱くなっている時もすべてをさらけ出して、素直に語り合える関係だった。
お付き合いしているパートナー関係にはなれた。

ただ、お互いが将来、誰かと一緒に過ごすこと、つまり結婚やパートナー関係を思い描いていたけれど、お互いに対して求めることがいずれズレていくことを感じ取ったから、一緒にいることはとても楽しかったし、支え合えていたけれど、「お付き合いしているパートナー関係」は卒業した。
価値観をすり合わせれば上手くやっていけるくらいの信頼関係であったけれど、どうしてもお互いの個人としての在り方が表れてしまう部分があって、コミュニケーションの仕方の違いがあって、生活の仕方の違いがあって、大好きだけれど、お互いのために別れる決断ができるようになった私たちは、大人な恋愛ができるようになった気がする。

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パートナーと子どもと白いサモエド犬と一緒に草原を走り回るような暮らしが理想だったけれど、私にはどうしても「結婚」と「生殖」「子どもを産み育てる」はイコール関係で結びたくなかった。
もちろん女性として生まれ、女性だという性自認もあるなかで、いつか子どもを産みたい気持ちはあるけれど、私は、「子どもを産んで育てようね」と約束して誰かとパートナー関係になって、身体的、精神的な理由や色々な事情で「子どもを産めない」状況になったときや、「子どもを産まない」状況になったとき、「子どもを産めない/産まない私には存在意義がない」かのように扱われてしまうことが怖いんだ。
だから、「もし子どもがいなくても、2人だけでも幸せでいられる」と思える関係を築きたかった。
「あなたの子どもを産みたい」とまでは私は思えなかった。ごめんね、私の愛情は弱かったのかもしれないけれど、これが私の最大限の愛なの。
だから、「あなたの子どもを産みたい」と言ってくれるもう一人の彼女と、あなたは幸せになってほしい。ここで「あれっ二股かけられてた!?」と気づいた読者さん。その話は墓場まで持っていくと決めたから、ここではナイショにさせてね。

人生の1/4以上の時間、仲良くしてくれたあなたと、友達ではなく、恋人関係になったとき、他のどんな恋愛関係よりも「別れたらつらい」ことは分かっていた。私たちはあまりに信頼関係が深すぎて、今さらただの友達関係に戻ることはできないから。かといって、もう永遠に連絡を取らない関係にもしたくないから。
これからは、たまに近況を報告しあう良き相談相手であって、お互いの幸せを願えたらと思う。