私が仕事をする理由。それは、「推し事」のためである。

高校を卒業した後、大学へ進学するもすぐに中退。
中退と同時期に、高校から続けていたバイトも辞めた。
そこから就職しようとしたが、ノウハウもなにもない私にはとても険しい道だった。

そもそも正社員になることの意味がわからなかった私は、契約社員の募集を見つけては応募した。
面接へ行くも手応えはなく、結果もその通りだった。
契約社員に求められるのは、やる気や元気よりも"経験"だった。
それからしばらくニートをしていた。
その間病院にお世話になったりもしたので、なんにもしてない時間があってよかった、と自分に言い聞かせている。

二十歳になる少し前からまた働き口を探した。
とりあえずはバイトで、とあちこち面接するもことごとく落ちた。
バイトすら受からないのか……と自分の無能さ、必要とされてなさがとても悲しかった。

◎          ◎

そんな中見つけた、あるイベントのレジ係の短期バイト。
「どーせ受かんねーし、テキトーに面接行こ」と舐めた態度(面接時はちゃんとしました)で受けたところ、その場で採用。
面接官に、「あ、すぐ決まっちゃってビックリしました?」と心を読まれてギクッとした。いや、顔に出ていたのかもしれない。

ゴールデンウィークの約1週間の短期バイトはとても楽しくできた。
そこに集まったメンバーの中には、普段は契約社員で別の仕事をしていて、休みの期間は給料がないからこっそり働きに来た、というお姉さんがいた。
地下アイドルを始めたばかりのお姉さんもいた。
今思うと、あの時に色々な方が短期バイトをしているということを知ったことが、現在の私を作っているのかもしれない。

その後、今度は別の短期バイトに応募。似たイベントの経験があることから採用していただけた。
夏の繁忙期の増員で、レジ以外にも品出しなどもあった。
好きなものに囲まれた職場だったので、はじめてのことも全力で習得しに行けた。
そこも楽しく期間を終え、またニートになった。バイトの面接は受けていたけど。

◎          ◎

一年くらい経った頃、夏の短期バイトで仲良くなった方に連絡を取ってみた。
短期から長期に変更してもらって、まだそこで働いていることを思い出したのだ。
「今年の繁忙期も、バイト、募集しそうですか……?」
出戻りは正直カッコ悪いと思っていたが、そんなことは言っていられなかった。店長に話をつけてくださり、一応面接も受けて、ではまたよろしくとのことだった。

それから途中で派遣会社が介入したりもあり、約5年続けた。
そしてその収入は推し事に費やした。
好きな仕事ではあったが、嫌なことが起こるのもまた仕事である。
苦手な上司と会わなきゃいけないだとか、現場を知らない偉いさんの意見を聞かなきゃいけないだとか。
ストレスで全身に蕁麻疹ができたこともあった。
その頃は推し事よりもお仕事に邁進していた時期だった。

◎          ◎

全力で駆け抜けようとすると、ゴールを見失い、「あれ?ゴールまだ?」と永遠に走ってしまって、無理になって壊れる。そんな体験を今まで何度かしてきた。
私は仕事に向いていない。けど、推し事のためなら頑張れる。
お仕事をするというよりも、心を保つための推し事をしたいから働く。

今は職を変え、それでもバイトという雇用形態は変わっていない。
それは推し事のためであることも変わりない。
クズだと言う人もいるが、今の時代、推しがいることは崇高なことだ、というある意味狂った時代だ。
私は特別生きやすさを感じる。
一昔前は蔑ろにされていたのだから。

◎          ◎

そんな私だが、少し心境に変化が生まれてきた。
この歳になって焦りを感じている。
就職した方がいいのか。でも普通にOLはできない。クリエイティブなことを仕事にできたらな。この期に及んでまだ夢見がちなのである。
今まで自分を見ないように生きてきたので、少し自分を可愛がってみるのもいいのではないか。そんなことも思っている。推しを自分にしてみたらどうだろうか、と。

とにかくなにかに縛られることが苦手な私。
やっぱり"正規雇用"という道は難しそうだ。
そしてやはり、なにかを推さないといられない性分も厄介だ。