同じ服ばかり着る人はエシカルだ。

幼少期、わたしは「ミキハウスのくまちゃんTシャツ」ばかり着ていた。アルバムの写真にうつる屈託のない笑顔の下には、決まってミキハウス。
幼稚園が嫌いだったわたしは、泣きながら園から帰ってくると真っ先に制服を脱ぎ捨て、ミキハウスに着替えた。ミキハウスを着ることで疲弊した精神を回復させていたのだと思う。
もはや、わたしのアイデンティティにまで成り上がったミキハウスだったが、肝心なお別れがどうだったかは忘れた。幼い頃からこんな調子だ。

ちなみにミキハウススタイルは、3歳〜小学校入学まで続いたとのこと(母調べ)。
さすがに着すぎだろと思うが、同じ服を着る性質は大人になった今でも変わらない。

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大人になって初めての結婚式が近づいていたときのこと。
当然、クローゼットにある服をバサバサとあさっても、お呼ばれドレスなるものは見つからない。
アパレル業界は、環境汚染産業ランキングで第2位と話題になっていたので、どうせならエコな服を買おうと思い探してみることに。
いろいろ調べていると、ネットには「エシカルファッション」という言葉がポツポツ落ちている。
どうやらエシカルファッションとは、商品の生産〜販売まで環境問題だけでなく、働く人の労働環境や人権問題、動物愛護に配慮して生産されたファッションのことをいう。これはいい。
具体的に、エシカルファッションを示す基準は10項目あるらしい。イギリスで設立されたエシカルファッション推進団体の「The Ethical Fashion Forum」によって示されている。

①安価で使い捨て型の「ファストファッション」や環境に害のあるファッション消費に反対する
②生産において労働者の賃金・権利・労働環境を守っている
③持続可能な暮らしのサポートになっている
④有毒農薬や化学薬品の使用問題に取り組んでいる
⑤環境に優しい繊維や素材を使用、または開発している
⑥水の使用量を最小限に抑えている
⑦リサイクルやエネルギー、ゴミ問題に取り組んでいる
⑧サステナブルなファッションを開発・促進している
⑨環境に対する人々の意識を向上させる取り組みをしている
⑩動物の保護に取り組んでいる

こ、これ全部か……とさっそく弱腰になったわたしは、「古着とかレンタルでもいっか」と結論づけた。我ながらブレがすごい。
実際に古着屋さんを何件もはしごしたり、レンタルドレスを見たりしてみた。が、気に入るドレスが全然ない。

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日に日に迫る結婚式。無意識にSNSを開く手つきでドレスサイトを開き、「ない……」と机に突っ伏す日々。
まずい。このままでは結婚式に行けなくなってしまう。
ドレス探しの早い段階で持ち駒をなくしたわたしは、かなり焦っていた。
それでも諦めず、検索窓に思い浮かぶ限りのエシカルな単語を並べ続けた結果、「Enter the E」を発見。
Enter the Eは、エシカル基準で服を選定し、世界中のブランドを集めたセレクトショップ。服の一覧ページは、洗練されたデザインとベーシックなシンプルさで大渋滞。マッチングアプリだったら、わたしたちは間違いなく恋人になっていた。
救いの主(Enter the E)は、渋谷のスクランブルスクエア9階にて待っておられるとのことで、さっそく行ってみた。

目に炎を宿し店内を闊歩する。いつもより大胆に服をかき分けていると、思わず拳をあげたくなるくらい素敵なワンピースが。
それは再生ポリエステルのワンピース。使用済みペットボトルをぐしゃぐしゃに砕いて精製したポリエステル繊維からできているという。
普段買う服より値は張ったが、今のわたしはそれどころではない。明日から昼飯をサブウェイからおにぎりにすればいいと思い、強気でレジへと向かう。

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会計をしていると、なにやら店員がニコニコしている。「このワンピースのブランドは『公正取引』にも配慮しているんですよ」
それはエシカルファッション10項目でいうと②(生産において労働者の賃金・権利・労働環境を守っている)にあたる情報だった。
あぁ、まいったね。そんなこと言われたら、もっと大事にしたくなるじゃないか。店員にありがとうございますと伝え、手に持つ紙袋をキュッと握りしめ店を出た。

ワンピースをゲットし、無事結婚式にも参加できた。友人との素晴らしい思い出も増えて大満足。これにてワンピースのお役目終了〜。
になるはずだったが、そうはさせない。わたしはワンピースの着心地や軽さ、デザイン、管理のラクさが大変気に入った。
そして何より着ていると気分がプンプンと2段階くらい上がったので、デートでも、会社でも着るようになった。

それから2年が経った現在も、再生ポリエステルのワンピースは、クローゼットの代表選手を担っている。きっとこの先何年も活躍してくれるであろう勢いで。

エシカルファッション10項目のなかに「同じ服を着る」なんて項目はない。
でも、なんだかそれは、とても大切で基本的なことに思える。
となると、わたしの人生初のエシカルファッションは間違いなくミキハウスだ。