わたしは自分で服を選ばない。
新しい服を買うときは、必ず夫に選んでもらう。

「この服どう?」「うーん、イマイチだね」
2人でアパレル店にいくと、夫が選んだ服を言われるがまま試着して披露する。
夫は試着したわたしをその場で一回転させ、厳しいファッションチェックを行う。
夫がダメと言えば買わないし、良いと言えばその服を買う。
いつの間にか、夫の意見をもとに自分の服を選ぶようになった。

夫が選んだウェデングドレスに、完全に一目ぼれした

きっかけはウェディングドレスだった。
ウェディングドレスといえば、花嫁にとって最も大事なものといってもいい。自分を最高に輝かせる一着を見つけるために、女性は何時間もかけて選ぶ。1回では決めきれず、何度も試着室に通うカップルだって珍しくない。

しかしわたしの場合、たった1回、それも2時間以内に決まった。
夫にドレスを選んでもらったのだ。

「これ、似合うんじゃない?」
試着するドレスを選んでいた時、夫があるドレスを持ってきた。
そのドレスは、どうみても地味だった。フリルやラメなど派手な飾りもなく、ややくすんだアイボリー色のドレス。散々探し回ったわたしでさえ見逃すほど目立たないもので、着る前から「これイマイチじゃないかな」と感じていた。

だけど着てみると、自分にすっごく似合うのだ。
派手さはないけど、上流貴族のような姿の自分が鏡に映る。
「これがわたし?」完全に一目ぼれし、夫の選んだドレスに即決した。
結婚式では、予想以上にドレスが大好評だった。
普段わたしを褒めない友人からも「お姫様みたい」と言ってもらえた。

「ドレス褒められたの、俺のおかげだね」
結婚式後、夫は得意げに言うので「たまたまでしょ」と返答した。

夫が服を選んでくれる時間が、わたしにとって何より幸せ

ところが結婚式以降も、夫の選んだ服を着ると妙に評判がいい。
普段は高級な服を着ても全く褒められないのに、夫が選ぶしまむらの服を着ると家族や友人から「似合ってるね」と大変好評なのだ。

どうやらわたしは、自分の服を選ぶのが苦手らしい。
どの服が自分に似合うか分からない。かわいいと思う服に限って、後々着てみると「あれ?」と感じるものばかり。要はファッションセンスがないのだ。

一方で夫は、わたしに似合う服を選ぶセンスがピカイチだった。
どれもわたし自身は絶対選ばない服なのに、着ると不思議とフィットする。
たとえユニクロ・しまむらのような安い店でも、わたしに似合う服を探し出してくる。

ただ正直、夫自身の服はお世辞にもオシャレともいえない。むしろダサい方だと思う。
以前白いYシャツの下に真っ赤なインナーを着ていたときには、さすがにギョッとした。
それでも、わたしの服を選ぶのだけは本当にうまい。
結局わたし自身で服を選ぶのは諦め、夫に全面的に委託するようになった。

自分で服を選ぶ自由はほとんどなくなったけど、全く問題ない。
夫が服を選んでくれる時間が、わたしにとって何より幸せな時間だから。

夫に選んでもらった服は、どれも大事な宝物

夫はどんな時も、一生懸命わたしに似合う服を選んでくれる。
アパレル店は女性客しかいなくても、何のためらいもなくグングンと店を物色する。
夫自身の服を買うときより、何倍もの時間をかけて。それも、すっごく楽しそうに。
あの瞬間、夫の愛情を一番感じられる。

ふと付き合ったばかりの頃の思い出がよみがえる。
2人でアクセサリーショップに入った時、周囲が女性ばかりの場所に慣れていない夫は、真っ赤な顔で「こういうとこ来るの初めてでよく分からないんだよね」とモジモジしていたっけ。
それから3年後、わたしたちは結婚した。
あの時のうぶな彼もいいけど、真剣な顔でわたしの服を選ぶ夫の方がずっと好きだ。

夫は仕事で国内・海外を出張しているので、普段わたしたちは別々に暮らしている。
一緒にいられる時間も、一般的な夫婦よりずっと短い。
だからわたしの服を選ぶ時間、夫の愛情を独り占めできているようですっごく幸せなのだ。

「ゆきちゃんの服、選んであげるよ」
夫のこの一言で、わたしは世界一の幸せ者になる。
夫に選んでもらった服は、どれも大事な宝物だ。
これからも、わたしの服をたくさん選んでね。