「シャンシャンシャンシャン……」
私は確かにその鈴の音を聴いた。サンタさんは本当にいる。そう思う瞬間だった。
忘れもしない、小学校4年生の頃の話である。

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その年頃ともなると「サンタさんはこの世に存在しない、正体は自分達の両親なんだ」なんて友人と談笑なんかしていたけれども、密かに存在を信じていた私は「サンタさんは本当にいる、いつか必ず会ってちゃんと話がしたい!」とずっと思っていた。
だからか、その年は例年より心を弾ませながら、その日を楽しみにしていた。
小学3年生まではクリスマスの日までに部屋を綺麗にして、いつもより少し早めに布団にこもり、サンタさんが去ったであろう翌朝に妹とどこにプレゼントがあるのかを探すというのが恒例行事であったのだが、不思議とその年は例年通り部屋は綺麗にしていたものの、直接サンタさんに会いたくて、布団にこもってもなかなかぐっすり寝付けなかったことを覚えている。
今思えば、夜中1時間おきくらいに目が覚めてはサンタさんが部屋の中にきていないか探し回っていたので、当時一緒に寝ていた両親と妹にはとても迷惑をかけてしまったかもしれないのだが……(苦笑)。

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何度も目が覚めて、サンタさんがいるであろう場所を探してもいないことを確認して落胆し、また布団に戻る、そんなことを何度も繰り返していたクリスマス当日の朝方4時頃のことだっただろうか。また目が覚めるも、さすがに何度も寝たり起きたりを繰り返していた私は、疲れと眠気で少々布団のうえでぼーっとしていた。
そのとき、私の耳にハッキリ「シャンシャンシャンシャン……」と鈴の音が届いたのだ。

鈴の音が聞こえたということは自宅からはサンタさんが去ったあとで、直接会えないことを意味していたが、サンタさんがプレゼントを置いていってくれた知らせだと思い、急いで妹を叩き起こして子ども部屋に一緒に行くと、欲しかったプレゼントが各々の机に置かれていた。
プレゼントに喜びながらも、妹に鈴の音を聴いたか質問してみたら妹には聞こえていなかったそうだが、私の耳にはハッキリ届いたその音、情景は20年近く経つ今でも覚えている。

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しかしながら、私自身も小学4年の時に聴いて以来、クリスマス当日に鈴の音を耳にしなくなってしまった。
もしかしたらあの音は、純粋にサンタさんの存在を信じていた私への、サンタさん自身による粋なサプライズだったのかもしれないと思っている。
事実、鈴の音を耳にしたとき、私以外の家族は両隣でぐっすり眠っていたし、朝方私が起きたことに気づいた親が少々つられて目が覚めて、「また?」と言わんばかりの表情をしていたのだから。
そんな寝ぼけ眼の頭に、外から響いた鈴の音。しかも、家族の中では私1人しか聴いていないという特別な、とても素敵な音。あの体験は、まるでピーターパンやトトロのように「子どものときにだけ訪れる」不思議な出会いのサインだったのかもしれない。

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大人になった今、誰かのサンタさんに私が今度はなる番。まだ私にはプレゼントを届けられる相手がいないが、いつか大切なパートナーとの子どもができたときには、この昔話を必ず聞かせてあげたいと思っている。
「良い子にして待っていると外から鈴の音が聞こえてきて、聞こえた後にはクリスマスプレゼントをサンタさんが置いていってくれるんだよ」と。

学年が上がり、やはりサンタさんの正体が誰なのかは気づいてしまった年が私にもさも当然かのように来てしまったが、小学生の頃に純粋に信じていたときに起こった、12月25日にしか姿を現さない、白髭で赤い帽子、赤い服を身に纏ってトナカイとともに訪れるおじいさんの話は、後世にも語り継いで行こうと思う。