きっかけはなんだっただろうか。もしかしたら、新卒で入った職場を退職したときかもしれない。一概に仕事のせいとは言わないのだけれど、私は当時、体調を崩して休職をしていた。
その間は自分が思っているよりもずっと焦っていたようだった。それでも何とか復職をして数か月。上手くいっていたと思っていたけれど、再び体調を崩して私は思い切って退職を決めた。
そのときからかもしれない。「人生を少し楽しんでみよう」そう思い始めたのは。

◎          ◎

退職をして数か月は落ち込んでいた。自分は社会でやっていけない人間なのだと責めて、本当にここが地底の奥底かのように思っていた。けれど、いつしか段々と気持ちが上向きになり、「そうだ、これを大人の夏休みだと思おう」そう考えた。ここが転機だったのだろう。

それからは少し忙しかった。ずっとしてみたかったことをできるだけ沢山してみようと思い様々なことをした。部屋の大掃除、断捨離、そうしているうちに一人暮らしがしたくなって一人暮らしも始めた。
それだけでは飽き足らず、友人から誘われて拝見したミュージカルの映像にハマり、新しい推しと出会って原作であるゲームまで始めた。人生で初めてのゲームだった。推しにまつわる書物を読み、博物館へ行き、友人と旅行にまでいった上、新しい友人とも出会った。仕事をしているときでは考えられないくらい人生は楽しかった。

そうやって、めいっぱい「大人の夏休み」を満喫した私は、一人暮らしの部屋で大の字になって寝ころんだ。それが確か今年の3月だったと思う。
友人や推しの繋がりから、たくさんのことと出会った。縁に恵まれた休暇だった。楽しくて仕方がなかった。けれど、どこかで寂しさのようなものも感じていた。
不思議な話だ。退職前はあんなに仕事にいくことが辛くて、毎日へとへとで、駅のホームでさめざめと涙を流すことしかできなかったくせに。唐突に「働きたい」そう思ったのだ。私はそのままの勢いで求人サイトへ登録し、そしていくつかの企業にアポイントを取った。

◎          ◎

4月。とんとん拍子とはこういうことをいうのだろう。内定が決まった。そして5月。私は再び働きに出るようになった。
ただ、あのときとはっきり違うのは、「人生を楽しむ」ことを念頭に置きながら働き始めたということだ。
初めは少しずつ、週3日数時間。それから少し時間を伸ばしていって、空いている時間に大好きな文章を書いたり、推しを応援したりしている。これから無理のない程度に働く日数や時間を増やしていくのだと思うのだが、あくまで私は自分の人生を楽しむために時間を使っていきたいと考えている。
仕事をしているときも、知らないことを学ぶたびに楽しいと感じるようになった。新卒のときでは感じる余裕すらなかったことだ。

私は1回の「大人の夏休み」で大きな学びを得た。
時間は自分のために使ってもよいこと。人生は思ったよりも楽しむことができること。そして、たくさんの出会いが素敵な縁を結んでくれることを、これからきっと知っていくのだと思う。
今私は、あのときとは違って何かに気付ける余白の思いがあるのだから。