あなたの本当の名前も顔も知りません。
でも、あなたの書く文字を知っています。SNSと生きる時代に、文通という手段を選びました。とは言っても、始め方は分からなかったのでスマートフォンで検索して、そこではじめて文通サイトというものがあることを知りました。
思い立ったが吉日、すぐにアカウントの登録をしました。
年齢、性別、住んでいる地域、ペンネーム、プロフィールが簡単に書いてある掲示板があり、そこから気の合う方を探してやりとりをはじめるようでした。

私は文通で自分の好きなことや感じた世界を言葉に書いたりして、趣味の話はそこそこに、ただ生活を文字に書くようなやりとりをしたいと思いました。掲示板をスクロールしていくと、同じような気持ちを書いているひとを見つけました。早速、手紙を書きました。
趣味の話をしましょう、が目的ではないので何を書いたらいいのやら、とさっそく筆が止まりました。
「初めての手紙 書き方」と検索をし、なんだかビジネス的な文章ばかり出てくるので、もういいやと時候の挨拶のあとは好きなことを書きました。
切手を貼って投函した日は、その翌日でした。

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それから毎日々々、郵便ポストを開けてはチラシばかりで、返ってこないということもあり得るんだもんなとなかば、諦めていました。
6月16日、それは初の文通投函日。7月7日、それは初の返事が届いた日。その1ヶ月弱がとても長く感じました。
返事がくるとは思っていなかったというのは強がりで、ほんとうは待ってました!と小躍りしたくなるほど嬉しかったです。

字が、とても綺麗でした。習字を昔、習っていたそうです。その綺麗な字にのった気持ちがとても美しく、何度も読み返しました。

それからやりとりは続いています。このあいだは、季節の草花が移ろいゆく様を見ることが好きです、と書いた手紙に、散歩で撮った写真です、と6枚同封してくださった写真に、字とは違った、でもおなじにおいの気持ちが伝わってくるのを感じました。
写真を裏返すと、あなたの字で花の名前と、いつ頃撮影したのかがすべてに書いてありました。「ヒメジョオン 6月頃 名前絶対覚えられないやつです(笑)」などの、コメントがついたものもありました。くすくすと笑い、なんだか元気が出たので部屋の壁に6枚とも飾っています。

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本名も顔も知らない人とやりとりすることは今はよくあることですが、それが手書き文字となると話が変わってくるでしょう。

手紙を送るために、便箋を選んでペンで文字を書き、切手を買い、最後はポストに投函するというさまざまな手間をかけてようやく送るのです。その邪魔くささを省いたものが、SNSなのかもしれませんが、その邪魔くささをお互いにしてまで行うことこそが、私にとってはとても楽しい時間なのです。

サブスクよりもCDを聴いて、電子よりも紙の本が好きな私。そんな私が、私は好きだ。