SNSがちょうど数年前の今日の投稿を教えてくれる。
「思い出」とカテゴライズされたその写真には、友達2人とレモンサワーを持って笑う私が写っている。

この写真を撮った居酒屋を出た後、私たちは占いバーに行った。当時好きだった彼との相性は、占いによると悪くなかった。
「彼はね、貴女のこと好きよ。でもね、彼の友達も貴女のこと好きよ」
お酒が入っていることもあり、占い師さんの言葉に本気ではしゃぎ、また、私の恋愛の傾向を言い当てられたことに大笑いしながら、ふとスマートフォンの通知を見る。待ち時間に投稿した「占いバーに来たよ」の写真を見た彼から、コメントが来ているではないか。
「俺もね、占い行ったけど人いっぱいでできなかった......!今仕方なく普通に飲んでる」

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「一緒に飲もう」という流れにはなったが、具体的な彼の居場所が分からない。
彼から返信が来なくなったためである。
それに、友達は深夜バスで帰ってしまったから、私1人で乗り込むことになる。
でも、私には「帰る」という選択肢だけは無かった。彼が今飲んでいるであろうメンバーは恐らく面識がある人達だから、平気だ。
彼と今から会えるのならば、たとえ知らない人が100人いる集まりであっても、少々厳つくても、1人で乗り込む覚悟と度胸なら持ち合わせている。というか、彼と会えるとなると、それらはむくむくと出現する。

そして、彼の居場所に関してだが、肝心なところで急に返信が来なくなるというのはどういうことか、馬鹿な私にだって分かる。
でも、もしかしたら先輩の熱い熱い話がちょうど始まって返信ができないのかもしれない。もしかしたら、今、キャバクラで飲んでいて、次のお店に着いた時に連絡をする気なのかもしれない。
万が一、連絡をくれた時に家でメイクを落として寝る準備をしている女にだけはなりたくない。
近くにいるよ!と返して、15分以内に駆けつけるタイミングが合う女でいたい。占いでも相性が良かったわけだしさ。

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とにかく、レモンサワーを飲んだ居酒屋や、占いバーのあるこの繁華街のどこかであることは確かである。このあたりにいれば、すぐに駆けつけられる。
繁華街を1人でウロウロしていると、変なお兄さんにばかり声をかけられる。スマートフォンの充電も少ない。モバイルバッテリーを購入しようと、深夜のドン・キホーテに入ると、もっと変なお兄さんが後をつけてきて、更に怖い思いをした。

ああ、どこか安全な場所で、充電をしながら彼の連絡を待ちたい。
私はカラオケボックスで待機をすることにした。充電コードの貸し出しもあったし、眠れるし歌えるし、ソフトクリームとドリンクはおかわりし放題だ。
カラオケボックスでのオールナイト、所謂「オケオール」を私は友達としたことがない。なので、私にとってのオケオールは、好きな人からの連絡を待つためにカラオケボックスで過ごしたあの夜である。

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結局、カラオケボックスも閉まる時間になってしまった。彼からの連絡もあるわけがない。
早朝、始発の電車で家に帰る。
空を見上げればほんのり朝焼けがにじんでいる。朝まで待っていたなんて夢で、今、私はただ夕方の繁華街を歩いているだけなのではないかとも思えてくる。
馬鹿みたいに爽やかな夕方。嘘。しっかり早朝。如何にも休日の早朝出勤をしているようなスーツ姿の真面目顔は、自ら進んで間抜けな夜を過ごしにいっただけの女です。
彼も何も悪くない。

さて、私の成長。言わずもがな、こういう夜を送らなくなったということなのだが、具体的に言うと、私は「いいところで帰る女」に成長した。私にとっても、相手にとっても敢えて「今からいいところ」のタイミングで帰る夜はもどかしく、なんだか甘美だと思えるようになった。
体調がいまいち優れない期間が何ヶ月かあり、どんな飲み会やデートでも1軒目で帰るようにしていたのだが、数回そんな夜が続いたときに気がついたのだ。

きっかけは奇しくも体調を崩したことがもたらしたわけだが、「あの夜」という比較対象があったからこそ、私はそう思えた。他の人はどうか知らないが、私はあの夜を経由しなければ、この甘美に気づかなかったと思う。
それから、あの夜のことを語ると、友達は苦笑いをするけれど、私はあの夜を不思議と「失敗」だと思えない。私の大切な「いい思い出」のひとつにカテゴライズされている。
人工的につくるタイミングの合う女からタイミングの合わない女へ。
そんな私の成長も、またいつかの思い出になるのだろうか。