「かんぱーい!」
いつものバイトメンバーで居酒屋に行く22回目のクリスマス。3人はよくシフトが被る、ただだのバイト仲間なはずだった。

学生最後のクリスマス。ボッチは避けたいとあの人へ一生のお願いを

「25日さ、シフト入らないで飲みに行こうよ!」
ボッチで過ごす学生最後のクリスマスはごめんだからと付け加えて、あの人へ私の一生のお願いを使った。

私は、いつものハイボールを3杯もおかわりして、今日は普段飲まない日本酒も飲んだ。ワインとかお肉が頂けるエレガントな場所へちゃんと行かないところが、うちららしいなと思った。

もちろんイルミネーションの下を新しい靴と共に歩いて、プレゼントも3人で交換した。私たちはクリスマス気分を存分に味わった。

23時半を過ぎた頃、1人の友達が、
「終電やばいから先帰るわ!」
と慌てて席を立った。私とあの人も会計を済ませて後を追った。
「あ~だいぶ酔っ払ってるな。今何時だろう」
と思いながら、私とあの人は2人で夜の空の下を歩く。

人生最悪のクリスマス。後ろから声をかけてくれたのはあの人だった

あの人に手を振り、それぞれの電車へ歩き、私は上を見上げると電光掲示板はすでにまっくらになっていた。

携帯を見ると充電は1%。
「終電がない」
すぐにあの人にLINEをすると、携帯の充電が切れた。
タクシーを呼ぶしかない。私の22年の人生至上最悪のクリスマスだ。もうお酒なんて飲まないと心に誓った。

改札の横でうずくまってぐずぐずと、そんなことばかり考えていると、私の背中から名前を呼ぶ声がした。
「もう俺も電車なくなった。とりあえず、マック探して、あったかいところ入ろ」
あ~命の恩人!私の心に光が差し込んだ。そうして2人は寒い冬の静かな空を歩いた。
こんなに足大きかったっけ?すごい手が綺麗だな~と、普段一緒にいるときには気づかなかったところに目と心が奪われる。
私いつもと違う。なんだか心臓がバクバクしている。

もうすぐ遠くへ行ってしまうあの人を目の前に、伝えるべきか悩む時間

あの人が突然、
「来年もこうしてまた集まれるかな?」
と小さな声でつぶやき、
「4月から地元離れて大阪に行くんだよね」
と風のようにささやいた。

もうすぐであの人が遠くへ行ってしまうことを初めて知った私。なんだか胸がギューッとして、鼓動が早くなった。声に乗せてずっと伝えたかった想いがたくさんあることに気づかされた。

切なさと寂しさと寒さで押しつぶされそうになった私は、自分のコンバースを見つめながら、
「近いじゃん!すぐ会いにいくよ!」
と笑いながら言った。

2人はマックに着き、私はホットコーヒーを2つ頼んだ。
コーヒーを片手に、彼は綺麗な目をキラキラさせながら、好きな音楽、映画、食べ物、場所、趣味の話をしている。

ああ、新しい場所で新しい人に出会って、新しい色に染まっていくのかな。
いつもとひと味違うマックのコーヒーを飲みながら、今心から思うことを、目の前の人に伝えるべきなのか、そんなことを考えている間に朝が来た。

純粋で健気だったあの夜は、心がちょっと大人になったクリスマス

今日がこのままずっとずっと続けばいいのに。
そう強く感じた私の想いは、何よりも純粋で、健気で、素直だったなと、あの夜を思い出すたびに思う。

自分の想いを人に伝えるって本当に勇気がいることだと思う。想いを伝えること自体は何も悪くないのに、伝えたことでもう普通に会えないかもしれない、気まずくなるかもしれない、そう思ってしまったらなんだかとても残酷だな。

あの日、想いを伝えられなかった自分に後悔している。だから、もう後悔した人生を過ごしたくない、伝えることを恐れてはいけない、そう心がちょっと大人になった22歳のクリスマスだった。