18歳のクリスマスは、はじめて男の人と過ごしたクリスマス。他大学の落研の同期。私のことを好いて、蝶よ花よと可愛がってくれていた稀有な人だった。
一緒に新宿の高いビルの高い階でイタリアンを食べた。どんな会話をしたとか、何が美味しかったとか、そんな記憶が一切ない。ただその前後というか付随する出来事は割と鮮明に覚えているから、人間の頭というのはよく分からない。

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確かその日は昼過ぎに大学の和室の部室に同期の女4人で集まって、変顔で写真を撮った。落研だから、鳴り物で使う太鼓なんか持っちゃって、ふざけた気がする。クリスマスの気配は一切なかった。
他の子たちは、それぞれにクリスマスの夜は予定があり、夕方ごろに解散して、私は新宿に向かったと思う。途中の町田駅の駅ビルに寄って、彼へのクリスマスプレゼントを買った。
そういう雰囲気で男の人と食事をするというのも当時経験がないし、ましてやプレゼントを贈る経験もなく、悩んだ末に地下の2000円くらい、もっと安かったかもしれないが、捻ってあるチョコがいっぱい入った缶を買った。ちなみにこの時点で待ち合わせの時間はめちゃくちゃ過ぎてる。
小田急線に揺られて新宿駅へ。そして連れてこられたのが、新宿の高いビルの高い階のイタリアンだった。心底びびった気がする。数日前から、予約しなきゃいけないからとショートメールで言っていたが、まさかこんなところに連れてくるとは。自分の予想の数段上だった。

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そもそもまず、我々は付き合っていないし、フォークとナイフを使うような場所は、29の今もだが、緊張してしまって得意ではない。クリスマスどこ行こうか?となった時に、私はファミレスでいいと主張していたが、そういう日はそういったところの方が混むという彼の持論が勝ってこうなった。

その時の服装は、大学に行ってから来たから、高校生の時から使っているカラフルな格子模様のリュックサックに、これまた高校生ぐらいから来ているニットに短パン、スニーカー。部室の畳の井草がちょっとタイツについてて、小っ恥ずかしくなった。
明らかに格好がミスマッチすぎる。予約してあるという時点でこれくらい察すればよかったのか。まぁ、18の上京したての私には無理か。

それで全額奢ってもらって、プレゼントにロウソクのチャームがついたネックレスまでもらってしまった。全額奢ってもらったことに対して申し訳ないという気持ちと、付き合ってないのになぜここまでできるんだろうという気持ちと、間に合わせで買ったチョコの缶でイーブンにもならなかったなぁとか、いろんな気持ちが混ぜこぜになった気がする。

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恥ずかしいとか、もやっとした記憶ってよく残るのだろうか。どんな経緯でこうなったのかも覚えていないから、今回書くに当たって当時のショートメールを読み返してみた。
私が「夜はぼっちで……」と言ったことがきっかけのようだ。そして、お礼には「嬉しいし、楽しかったけど大変だった笑」と。「笑」つけてあるけど、これが本音だろう。身の丈にあわないことはやらん方がいい。

あの時から10年以上経った。蝶よ花よと可愛がってくれて彼は元気にしているだろうか。
そしてたまに東京に出た時に、クリスマスじゃなくても新宿の高いビル群を見ると思い出す。私は限りなく女子大生らしかったと思う。