去る2022年の11月をもって異動された社員さんにある言葉を言われて以来、ずっと喧嘩腰で接してしまったことが、私の心残りである。
今年の2月に今勤務している書店に出戻り入職し、そこで出会った、現在は入社2年目の社員さんなのだが、私自身が体調を崩してしまったり、昔にはなかった新しいオペレーションに慣れていなくて戸惑ってしまっていたときはとても優しく接してくださっていたので、「良い方だな」「これからもついて行きたいな」と純粋に思える印象を持っていた。
それが音を立てて崩れていったのは、入職後2ヶ月くらいの頃だっただろうか。
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声をかけられるまで気づかなかったのだが、レジ業務の所作を見ていたらしい社員さんが突然、「丁寧ですね」と私に声をかけてくれたのだ。自分自身も接客姿勢には最も力を入れていたところだったから、純粋に嬉しかったのだけれど、その直後に「そんな丁寧にしすぎる必要ないんで、レジの回転率を上げてください」と、先の言葉をまるで全否定するかのように冷たい言葉を放たれたのだ。
例えるなら、現地の人には申し訳ないが、よく悪く言われてしまっている京言葉の本音と建前を同時に聞いてしまった気分になったのと、極寒の中、氷水を頭からぶっかけられたような感覚でとてもショックを受けた。
昔はあれだけおもてなしを念頭に置いていた店舗の姿はどこへ行ったの……?と。
今の職場には出戻りということもあり、自分が描いていたスタッフ対応とのギャップが大きく、ずっと戸惑いが隠せなかった。このもやもやは、その社員以外のスタッフからの話や、店長と面談で胸中を明かした折に根拠を示した上で、なぜ回転率を上げて欲しいのか店舗の状況と理由を教えてもらってからは私も納得して一度は晴らすことができた。そのうえで気持ちを立て直すことができたが、本当に自分がよくなかったと自覚して反省している部分以外での指摘がやはり私にとっては納得いかない内容も多く、結果的に徐々に上っ面の対応しかしなくなってしまった。
たとえば自分が効率的だと判断した行動の否定であったり、担当分野以外の問い合わせ相談をしようもんなら社員としていかがなものかと問いただしたくなるような返答をスタッフにもお客様にもしている場面に出くわすこともあり、信頼が少しずつ失われてしまった。
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信頼度が氷点下に近い状況下でいつも仕事していたので、何か否定系の発言をされると、いつしか喧嘩を売るような態度を私はとるようになっていった。他の社員さんには絶対やらないような態度を、だ。
今を思い返すとただただ情けないことをしてしまったな、と思うのだが、やはり何か否定されたり、適当に扱われたりすると、すぐに態度に出てしまっていた。
そして私はある事に気がついた。その社員さんが私にとる態度は、私より年下の学生アルバイトやご自身が担当されている部門のスタッフにはしていなかったということだ。
「この人は、人によって優しくしたり、蔑む態度を取る人だったんだ」
私の、社員さんである彼女に対する態度は、さらに悪化の一途を辿っていく一方だった。
そんな彼女が、社長面談があると言って出張に行っている話を聞いたり、会社の人事部長と電話でやりとりしている姿を目にして、「まさか転勤?それとも退職してしまうの?」と勝手に心配していた矢先、店長から12月1日付けで異動になるという発表が店舗スタッフにされた。
そこから残された期間は穏便に過ごしたかったが、相手からしたら仕事のこともあり、やはり私の言動、行動を否定する言葉を投げかけてきたのだった。
最終的にはその人の前でお客様対応をするときはロボットみたいにおもてなしの部分を削ってその場をしのぐようになり、溝は埋まらないまま彼女の最終出勤日を迎えてしまった。
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最後だからって特段送別品や手紙を個人的には準備せず出勤し、通常通り仕事をしていたところ、勤務を終えた彼女が私のところに来て、こう一言告げて去っていった。「短い間でしたがありがとうございました。体に無理せず頑張ってくださいね」と。
私も業務の手を止めて、「こちらこそ、短い間お世話になりました」と簡単に挨拶を返して彼女を見送ったが、そのときに、直接口で言えず後悔したことがある。それは「貴女から指摘を頂いたときに、本当に納得いかないばかりに喧嘩を売るような態度をとってしまい、申し訳ございませんでした」ということだ。スタッフで作った寄せ書きでは同じことを書いたが、本当は直接言いたかった、お詫びの言葉だった。
ずっとずっと言えなかった、助けてくれたことも多かったのに、恩を仇で返してしまったような私からの、直接のお詫び。喉まで出かかったのに、伝えられなかった想い。送別品としてスタッフ一人一人が書いた寄せ書きには私が直接伝えたかった想いを綴ってはいるので、新天地で働いている彼女が直接見てくれていればいいな、と思う。
今回の異動は彼女自身が選んだ、新たな旅立ちであり、店舗からの栄転でもあるので陰ながら彼女の活躍を応援していきたい。