私が彼を想う気持ちは耐震ビルみたいだな、と思った。
そんなことを思ったのは、母親と高層ビルの造りの話をしていたのがきっかけだった。

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母は今、都会の高層ビルで働いている。最近なんだか地震が多いけれど、高層ビルのわりに意外と揺れない。多分地下深く掘ってしっかり耐震工事してるんだと思う、と教えてくれた。
私たち家族は昔、25階建てのタワーマンションに1年半だけ住んでいた。夢のマイホーム購入だったが、1年半で転勤となり、のちに売ることになる。
私たちが住んでいたのは新築のタワーマンションだった。そのマンションができる前は、近所のアパートに住んでいた。
父は当時、定期的にタワーマンションの工事中の写真を撮っていた。少しずつ高く積み上がっていくマンション。その過程をガラケーにおさめて、入居の日をワクワクして待っていた父の姿を思い出す。

一生懸命働いて買ったタワーマンションを1年半で手放した親の気持ち。社会人になった今想像すると、より辛く共感してしまう。
母はあの頃を思い出して言う。あのタワーマンションを作るときも、だいぶ深く掘ってて、地下の工事の時間が長かったと。
地下深く工事した高層ビルは、地震に強いんだなあ、と学んだ。
そして、それは私が彼を想う気持ちに似ているな、なんて思ったのである。

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私と彼は付き合ってまだ1年も経っていない。けれど、出会ってからもうすぐ5年目になる。
出会ってから付き合う前の3年間、私たちはバイトの同僚以上でも以下でもない関係だった。バイト先以外で顔を合わせたことすらない。
あとから聞いた話では、彼は出会って半年のころに私を好きでいてくれたらしい。でもそのとき私には他に彼氏がいた。

その人と私が別れたとき、彼は他の人と付き合い始めた。数ヶ月後、私は彼を好きだと自覚した。その数日後に、彼には彼女がいるということを知った。半年足らずで別れたことも知ったが、そのとき私はもう諦めてしまっていた。
お互い一度ずつ失恋しているのだ。想いを伝えることなく。そんな典型的なすれ違いを経験しながら、大学を卒業し社会人になる、つまりバイトを辞める直前に、お互い勇気を出した結果、今に至る。
まだ付き合って1年経っていないなんて信じられない感覚である。3年もずっと一緒にいたから、そう思うのも不思議ではない。

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付き合ってからはじめて知った彼の一面はたくさんある。
ときには、「うざっ!」と思うことも、「きもっ!」と思うことも。実際に口に出して言ってしまうこともあるくらいだ。
でもそれらをすべてパーにしてしまうくらい、何回も彼の優しさに触れている。
付き合う前の3年間で、彼のいいところは浴びるくらい感じていた。その歴史は簡単になくならなくて、少し冷めるような出来事があろうと、盤石な土台になっているな、と思う。

だから3年間のすれ違い、片想い期間は、ビルの地下工事のようだったと思う。
私は3年のあいだで、彼への想いを深く、そして高く積み上げてしまったのだ。
付き合うまでに時間がかかったから、別れるのがもったいないと思うのとは、また違う。
もうすでに、3年間の工事期間で彼のいいところをたくさん知ってしまったから、小さな嫌なことがあっても、簡単に嫌いになんてならないし、彼への信頼は崩れないのである。

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ビルの高層階が地震で揺れやすいように、私の想いの先がゆらゆら揺れてしまうことがあったとしよう。でもそれは一瞬の揺らぎであって、根本の彼を想う気持ちは簡単に崩れたりしない。地震に、とても強いのだ。
でもそう思えるのも、過去に優しさをたくさんもらったからだけではない。
彼女になった今も、あのとき以上に、優しさをたくさんもらっている。彼はスマートじゃないし、気が効くタイプではないし、失礼だがジェントルマンとはほど遠いような人間だ。
でも、飾られた小手先の優しさじゃない。本当に相手を想うからこそできる行動と言動が、いつも私を癒してくれる。
それを自然とできるところがすごく好きで、とても尊敬している。

彼の優しさは、コストコに売っているカラフルなデコレーションケーキとは違う。材料は片手で数えられるくらい厳選されていて、シンプルで、素朴なチーズケーキみたいだ。
純粋で、余計なものが入っていなくて、優しい味。
なんの記念日でもない日の夜。彼がいきなり買ってきてくれたチーズケーキを食べながら、私は静かにそんなことを考えていた。