医療脱毛、ブランドバッグ、ホテル女子会……これらは10年前の100万円の使い道。海外旅行、車、エステ……こっちは5年前。そして今100万円があったら、迷うことなく全額貯金の一択です。
◎ ◎
100万円って間違いなく大金だけれど、使おうと思えば直ぐに使い切れてしまう金額であることに、大人になってから気がついた。だからこそ、その有り難みを理解してそっと銀行に入れておきたい。もしくは投資に回しても良い。
こうして考えてみると、お金の使い方には人生の成長を感じられる。美容や目に見えるラグジュアリーな消費に拘った10代後半が、徐々に行動範囲を広げたり癒しを求める使い道に変わっていく。そして遂には触れることすらせずに未来の安全材料と見なされる。きっとまた30代や40代になったら考えが変わってくるのだろう。
ちょっと立ち止まって文字としてこの欲望を俯瞰すると、打ち上げ花火のような華やかさは消え、ただの紙幣としての価値しか見えていないかのよう。年を取るってそういうことなのかな。どこか寂しさが込み上げてくる。
◎ ◎
もう少し時計の針を戻してみる。
この100万円問題は、誰しも考えたことがある身近なものであることは間違いない。それを物語っている私の思い出は、中高生時代の定期考査。早く問題が解けた、もしくはもう諦めた時、不意に浮かんでくる100万円問題。つまり、暇を持て余した時の格好の妄想題材なのだ。何十回この妄想で残りの試験時間を有意義に潰したか分からない。
学生時代の100万円は巨額そのもので、運命すら変えられる魔力を秘めていた。うまい棒がなんと10万本買えます!でもそれは飽きるから、カップラーメン1万個でもいいな。あー、でもそれだと健康に良くないから、ウイダーインゼリー5千個にしようかな。
そう、女子中高生はとにかくお腹が空いているのです。
そのうち、欲しいコスメをブランドでライン使いしたいだの、109に行って気になった衣服を試着しないで買うだの、尽きぬ物欲へと進化していく。
一貫して言えることは、夢があった。100万円で夢を何十個も叶えられると思っていたのだ。
◎ ◎
いつから100万円では夢が買えないことに気がついたのだろうか。
少なくともいま、「100万円を貯金・投資することが夢だったの!」なんて思っていない。
でも金額の問題でもないことは分かっている。
マンションを買うことが夢だ、北極圏に行くことが夢だ……こんな風に自身の夢を語る人は周りにはいない。
時間が進む速度は中高生の時と一緒なはずなのに、社会に出て忙しなく過ごしているうちに妄想や夢はどこかに置き忘れて、取りに戻る力も残っていなければ、置き忘れた場所すら忘れてしまったということなのだろうか。
でも、100万円問題を考えることで胸に広がったこの虚無感は、きっと悪い感情ではない。
学生時代だって、先生から執拗に「若者よ、夢を持て!!」と言われることにうんざりしていた。ただ、昔は身の回りにある些細な物も憧れの対象だったというだけ。
◎ ◎
夢が消えたというよりは、自分の物事に向けた眼差しが変化したということなのだろう。
よく言えば、お金で買えるものへの魅力が減り、買えないものに惹かれつつあるということ。
親友たちの時間を買って、彼女たちに1日好きに過ごしてほしい。24時間で十分だから、休んでほしい。
もしくは、大好きな彼が寝付けない夜に、平穏な眠気を誘ってほしい。一晩だけでいいから、温かい夢を見させてあげてほしい。
これが大人の妄想で、夢。そう考えると、やっぱり悪い感情ではない気がする。