数年前の冬、一年で一番寒いある日のことだった。
その日、仕事が休みだった私は、旦那を見送った後、自宅でのんびりとしながら休暇を満喫していた。

しかし、朝はなんともなかった体に、私は次第に異変を感じ始める。
なんとなく体が怠く、頭も重い。部屋に暖房を入れ、毛布を頭からかぶってもおさまらない、体の心から冷えるような寒気。
嫌な予感がし、体温計で熱を測ってみると、38度2分。予想通り熱が出ていた。
体があまり丈夫でない私は、体調を崩しやすい。これ以上悪化しないよう、少しでも早く回復させるため、私は寝室で眠ることにした。

◎          ◎

数時間後、眠ったおかげで気分は少し良くなっていた。だが、もう一度体温を測ると38度5分。眠ったはずなのにまた少し熱が上がっていた。
家で一人でいる時の高熱。不安になった私は、少し迷ったが仕事中の旦那のラインに、体調を崩した旨のメッセージを送ることにした。その後も布団で横になり、眠ったり起きたりを繰り返していた。

午後5時半ごろ、残業予定だったはずの旦那がずいぶん早く帰ってきた。
手にはポカリスエットやゼリーが入った袋。私の体調を心配した旦那は、残業を断り早く帰宅してくれたようだ。申し訳なく思う一方、一人で体調を崩していることが心細かった私は旦那の帰宅に安心し、彼が買ってきてくれたポカリスエットを飲み、ゼリーも食べることができた。
私の食欲にほっとした旦那に「後は片付けておくから、今日はもう寝た方がいい」と言われ、私はおとなしく眠ることにした。

その日の夜。22時ごろに目が覚めた私は、自分の体が昼間に比べ大分熱くなっていることに気が付いた。熱々の体に気分も悪く、恐る恐る体温計で熱を測ると、39度5分。
狭い賃貸アパート。一つしかない寝室で私の横で眠っていた旦那はすぐに気が付き、「これはまずい。すぐ病院に行くぞ」と言って救急車を呼んでくれた。

◎          ◎

救急車はすぐに来てくれ、高熱でぐったりしている私をよそに、旦那は救急隊の方に私の持病や飲んでいる薬、日頃かかっている病院を伝えてくれた。救急車の中で体温を測ると40度に達し、救急隊の方も驚いていた。

病院につくと、すぐにベットに寝かされ点滴が施された。採血とレントゲン検査の手配がされ、検査室に運ばれた。

検査の結果、異状は見られず、点滴の処置のおかげか熱も38度5分程度まで下がってきていた。帰宅の許可がでた私と旦那は安堵し、自宅に帰ることにした。

が、安堵したのも束の間。救急車で運ばれた時間はすでに夜遅く、終電の時間はとっくに過ぎていることに気が付いた。帰る手段は一つ。タクシーを呼ぶしかない。
しかし、都会で駅が近いため、普段は電車やバスの利用ばかり。私も旦那もタクシーを呼んだ経験は皆無。呼び方もわからなかった。

◎          ◎

2月の真夜中。体が冷え、再び私の体調が悪化することのないようにと、旦那は自分のコートを貸してくれ、コンビニで温かいココアを買ってくれると、そのまま私をコンビニでまたせ、寒い中タクシーを探しに走ってくれた。10数分後、無事にタクシーに乗ることができた私たちは、帰宅するとぐっすりと布団で眠った。

翌朝目覚めた時、体温は37度9分。まだ少し熱があるが昨日に比べると、大分下がっており、元気も出てきていた。また熱が上がるのではないかという不安ははずれ、37度台をキープ。翌日には平熱に下がっていた。

急な発熱。どんどん上がっていく数字を見た時は不安いっぱいだったが、私のために仕事を抜け、一生懸命動いてくれた旦那。寒い真冬の夜中にタクシーを呼びに走ってくれたこと。
寒い時期の心の中は愛でポカポカに温まった思い出である。