100万円。私の給料の約半年分。それが突然手に入ったら。想像するだけでワクワクしてしまう。

もし、現実になったら、好きなことに一気に使ってみたい。
やってみたかったいくつかの習い事。
ミシュラン三ツ星のお店で料理を満喫。
高級エステで極上体験。
他にも数えきれないくらいある。

でも、何だかんだで実際には、別の使い道を選ぶのだろうと思う。犬屋敷家では、お金を大切にする習慣が根づいている。意味のあることに使うのは良くても、無駄な出費は決して許されない。

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あれは、私がまだ小学生の頃だった。
当時、若かった父がUFOキャッチャーをするために、近所のゲームセンターへこっそり通っていた。そして、ある日たまたま知り合いの方に目撃されたことで、母と祖母にバレてしまった。

顔をしかめて叱る2人。小さく縮こまって下を向いている父。
私は今でも、あの光景を鮮明に覚えている。その時から「お金は無駄遣いせずに貯金しよう」と考えるようになった。

テレビで宝くじのCMを見ると、家族の間でよくこんな話題になる。
「もし当たったら何に使いたい?」
母に怒られていたので、父の答えは今回伏せたいと思う。

母は、「家中をバリアフリーにして、駐車場をもっと広くしたい」と言っていた。生前の祖母の人脈もあり、実家を訪問してくれる年配の方がたくさんいる。とてもお世話になっているので、いつかその人たちみんなを家に招いて、恩返しをしたいそうだ。
最近は、実家の洗濯機にガタがき始めているので、次は性能が良くて長持ちするものを買いたいと言っていた。

母は、自分のためにはお金を全然使わない。祖母がそうしてくれていたように、母もいつも家族のために使ってしまう。
だから、私もきっと同じように使うと思う。将来のことを考えてコツコツ貯める。本音を隠して、家族のために。
時々、自分にとってそれが本当に幸せなのか、迷うことがある。

私には、小学校からの親友がいる。彼女は「好きなことに使っちゃうから、貯金が全然ないんだよね」と、ヘラヘラと笑っていた。それを聞いたときは「ヤバイな」と苦笑いしてしまった。
普段のお金の使い方を間近で見ていても、私とは違って奮発することが多い気がした。そんな彼女がもし100万円を手に入れたら、一気になくなるんだろうなと思う。

私にはあり得ないことだと感じる一方で、彼女がちょっぴり羨ましくもあった。
貯金したり、家族のために使ったりすること。
たしかに、それも大切なことかもしれない。
でも、私は自分のために思い切りお金を使っている親友の方が、とても幸せそうに見えた。

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私は現在、一人暮らし。
コツコツと節約しながら生活をしている。ポイ活もしていて、毎月雀の涙ほどではあるが、お金が手元にくる。

転職したのにまた辞めたくなっている仕事も、お金を稼ぐために耐えながら働いている。評価が優秀な社員に毎月与えられる1万円のために、自分を偽ってヘコヘコしながら評価を保っている。

お金を貯めるために、私はここまで努力をしている。それなのに、心はあまり潤っていない。きっと、「自分のために自由にお金を使う」という目的がないからなのかもしれない。
親友ほどでなくても、「自分のためにお金を稼いで使う」という風にした方がいいのかもしれない。

でも、全額を使ってしまうというのは、やはり私の性格からしてもできない。
だから、こうすることにした。
もし、100万円を自由に使っていいなら。40万円を家族のために使う。30万円を貯金する。
そして、残りは自分が欲しいものや、したいことのために使う。
これが、私にとっての理想。正しい使い道。