私の生まれ故郷は人口が数万人の、栃木県にある小さな町である。
栃木県の人口は190万人だが、私の住む町の人口はそのうちの5%にも満たない。電車は各駅停車しか止まらず、チェーン店もマックとココスくらいしかない。
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最近、栃木県の人口と第二の故郷である札幌市の人口が同程度であることを知ったが、一度札幌市の利便性を知ってしまうと私の住む町は実に住みにくい。
栃木県は2021年の魅力が最下位で、影の薄い都道府県ランキングでは1位を獲ったこともある。そして私の住む町は県内の影の薄い市町村ランキングでは上位に食い込んでいる。まさに、表面だけを見るとあまり魅力的とは言い難い町である。
大学院修了後、1年以上ぶりにマックに行ったが、こんなにも自転車を漕がなくてはいけないのかと感じたのを覚えている。郵便局も平日のみの営業で17時に閉まってしまう。市町村合併が進む今日において栃木県もどんどん町の数が減少し、今では県内でもトップクラスに人口の少ない町となってしまった。
決して利便性の高い町とは言えないが、私はこの小さな町に魅力の可能性を感じているし、町のままで居続けてもらいたいと思っている。
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私は大学院生時代、栃木県の小さな町にある公立中学校の部活動の歴史について研究した。
創立時から現在までの30年の変遷を追うことで、中学校が生徒数の減少や部活動のガイドライン等といったものにどのように対応してきたのかを知ることが出来る。活動実態、教育行政機関との関連、創部、廃部の動向、生徒への対応についての歴史的変遷を追った研究はなかなか見られないことから、良い研究になったのではないかと思っている。
研究を計画し、実際に調査をしたのは私であるが、歴代の教員にインタビューをしたことから、先生方の協力なしには仕上げることはできなかった。
この研究は、私にとって人生の分岐点となった。
教科外教育である部活動は各学校の裁量によって任されており、県内だけを見ても公平化されているとは言い難い。また、公立中学校においては最も活動時間の長い部活動であるが、その実態は可視化されておらずどの地域に生まれるかによってできる活動が限られてしまっている。ならば、県のHP等で各学校の部活動の活動実態等を公開することによって、中学生が自由に自分のやりたいものを選択できる環境を整えていきたいと思った。
そこで、公平性の保たれた行政サービスを提供するために県職員を目指すこととした。実際に「行政職員の立場から教科外教育の発展と学校間格差の是正に努めたい」という志望動機をもとに内定を頂くことが出来た。
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このように、私は町や県の魅力はアピールするものではなく、作り出すものであると考えている。
2018年、当時はまだ先行研究が今ほど充実していない中で私は資料収集に全国を駆け回り、あまり先例のない手法で研究計画を実行した。そして、上述した内容について明らかにすることが出来た。
各駅停車しか止まらない田舎の公立中学校出身者にしては大胆なことをしたと思っている。そこに私の政策提言を実行したら、栃木県は開かれた部活動を展開する都道府県として魅力あるものの1つとカウントすることが出来るだろう。
繰り返しになるが、これは町のために貢献したい私と私のために協力して下さった教員とが合わせて作った努力の結晶である。
このように、町の魅力とは、掘り起こすものではなく作り上げるものである。自分の住む町に不便を感じている皆さんも、何か自分の住む街の魅力を作り上げてみてはいかがでしょうか。