家族や友人との、懐かしい思い出に溢れた場所。
ふとしたときに帰りたくなる場所。
一般的には、そんなイメージのある"ふるさと"。
「帰省すると落ち着くよね」なんて、同郷の友人ともよく話す。
ここで過ごすひとときのために、仕事を頑張っていると言っても過言ではない。
居心地が良すぎるので、「さっさと仕事辞めて地元に戻ろうかな」と考えたこともあった。
それでも、私は東京に住み続けて、今に至る。
その理由は主に2つある。

◎          ◎

まず1つ目は、地元で嫌な思い出が多かったから。
ふるさとは、私にとって温かいだけの場所ではなかった。
家族との思い出は、もちろん宝物。
でも、上京する前――特に、小学校から高校までの12年間は、あまり良いと言えるものではなかった。
人間関係でとても悩み、疲れてしまっていた。
何もしていないのに、悪口を言われたり、いじめに遭ったりした。
「友だちって何なんだろう?」と思うような出来事もいくつか経験した。
「こんなところ、早く出ていきたい」と懸命に勉強して、上京することができた。
たまに帰省するくらいが丁度いい。
地元に戻って暮らし始めれば、嫌でもあの頃の知り合いに会ってしまう。
つらかったことを思い出してしまうから、できればもう顔を合わせることは避けたい。

2つ目は、きっと甘えてしまうから。
上京するまで、ずっと実家暮らしだった。
ちょっとしたことでも、面倒だと思えば家族の誰かにお願いしてやってもらう。
家事は、今の1/3程度しかしていなかった。
私の場合は、誰かと一緒に住んでしまうと、そういった甘えが出てしまう。
一人暮らしをしていると、実家にいた頃とは違い、近くに甘えられる人はいない。
自分ですべてやらざるを得ない状況だからこそ、働きながらでも家事をこなせている。

前職では慣れない業務に加えて、人間関係に恵まれずパワハラを受けた。
どんなに我慢が得意な私でも、耐えるのには限界がある。
心身が少しずつ不安定になっていった。
風邪でもないのによく微熱が出たり、腕に蕁麻疹が出たりしたこともあった。
「死んじゃいたいな」と平気で考えることも増えた。
会社を辞める1年前から、心療内科にも通った。
亡き祖母譲りの「負けてなるものか」という精神で、何とか乗り越えた。

◎          ◎

転職してもうすぐ一年経つ。
母には色々と心配をかけた。
私が壊れそうになっている姿を、何度も見てきている。
そんな母から社会人3年目を少し過ぎた頃、あるルールを課せられた。
それは、もし私が本当にだめになってしまったら、強制的に地元へ引き上げること。
通称、"強制送還ルール"だ。
ちなみに、私の身長164cmに対して、体重が30kg台になった段階でアウトという条件もつけられている。
ストレスで体重が落ちやすいので、そうならないように気をつけている。
嘘をついていても、犬屋敷家の習慣である朝晩の体重測定で、母に体重がバレてしまう。
アウトになったらもう東京にはいられなくなる。

実家暮らしに戻ったら、母はきっと私を甘やかす。
過保護な面があるので、私に家事すらさせないレベルで休ませるだろう。
「しばらく働かないでいいから、ゆっくりしてな」なんて言い出すに決まっている。
母の優しさに甘えすぎて、元気になってもダラダラしてしまいそうだ。
それに、母にはまだまだ親孝行できていない。
だから、東京で一人前になって、母に恩返しする。
過去のことを吹っ切れて、普通に知り合いと接することができるようになったら。
心身ともに強くなって、家族に頼りにされるくらいの存在になれたら。
そのときは、"ふるさと"で家族と楽しく暮らせたらいいなと思う。