「学生はお金はないが、時間はある。社会人になれば、お金はあるが時間がない。大学生になったら、お金は多少なくとも、思いっきりやりたいことに時間を割きなさい」
高校卒業前に先生がそう言っていた。
当時の私はその言葉を真に受けて、大学時代はバイトに勤しみ、稼いだお金は自分のやりたいことに全て費やした。
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当時趣味だった観劇に使うお金は、月3万ほど。高い時は平気で5〜6万ほど費やしていた。基本、月に一度しか行かなかったため、観劇代だけだと1万円くらいだったが、交通費やグッズ代など、その他諸々の費用を含めると、合計でそれくらいは普通に使っていたと思う。大学の4年間だけで幾ら使ったのか、もはや覚えていない。
お金がないはずなのに、大学生の私は、その額でも躊躇なくバイト代のほぼ全てを趣味に投入していた。そんな当時の私に百万円を渡したなら、数十万はその趣味に簡単に使ってしまうかもしれない。
しかし今、百万円が手元にあれば全て貯蓄に回すだろう。
高校の先生が言っていたことは本当なのかと疑うほど、社会人になって時間もお金もない私にとっては、趣味の観劇も学生時代に比べれば遠のき、ただただ毎日を生きることに必死になっている。
百万円があれば、奨学金の返済に苦しむこともないし、日々の生活も少しは豊かになるかもしれない。
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大学を卒業し、歳を重ねて人生のステップを踏んでいくにつれ、生きるにはお金が大切だと思い知らされる出来事ばかりである。
幼い頃は、百万円があればなんでもできると思っていたが、実際はそうではなかった。百万円なんて使おうと思えばすぐである。
大学時代のように、稼いだら稼いだ分だけ使うなんて今の私にはできない。一度、たくさん使って無くなる経験をしてしまうと、お金を使うことへの恐怖が芽生える。今はその気持ちをうまく利用して貯蓄しようと励んでいる。
そう思う一番の理由としては、これからのライフイベントを考えてしまうからだろう。
アラサーを目前にして、結婚という選択肢が目の前に立ちはだかった瞬間、「私はまだ結婚できない」と思ってしまった。結婚を躊躇する理由で、"金銭面"が挙がることが悔しかった。
今は、私一人がギリギリ生きていけるお金しか貰えていない一方で、大学の同級生たちは私よりも稼いでいるという事実に悲しくなる。このままでは、これから30代へ向かっていく人生を楽しめないのだと気がついた。
結婚するとなれば、生活するのにもっとお金は必要になる。いつか親となり、子どもを育てなければならなくなった時、貯蓄がゼロだと何もできない。
もし百万円があれば、その時の足しにしたい。
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百万円なんて、生きていくには、"足し"にすることしかできない額なのだと思う。
足しにするだけではなく、これから貯蓄をしていく上で、百万円が口座にあれば、普段から心の余裕ができる。一番の望みはその「心の余裕」なのかもしれない。
お金はあるに越したことはない。今の困窮は、将来豊かな生活を送るためだと思えば、節約するのも、趣味の観劇を我慢するのも厭わない。
これから、30代が近づくにつれてやってくるライフイベントに出し惜しみせず、楽しむためにまずは百万の貯蓄を目指したい。