時代が変わったよねえ。
親に生理の話をすると、困ったような笑みを浮かべて、こんな曖昧な返事をされる。
親の反応から察するに、昔に比べたら、生理の扱いはずいぶんとオープンになったのだろう。
けれど、私は今のオープン度合いでも正直まだ不満だ。どうしてもっと普通に、生理について話し合うことができないのだろう。痔や便秘の話は平気でしてくるくせに、生理の時にだけかかるブレーキは一体なんなのだろう。
社会的な規範がそうさせているのだとわかっている。時代はまだまだ変われると思う。

たとえば、先日こんなことを思った。
社内の共有カレンダーに、生理の予定を書き込んだら?と。

私の勤めている会社は女性従業員が多い。今の部署だけで言えば、4分の3が女性である。それでも、男性の方が多い職場に比べればまだ緩いと想像はつくものの、生理を「無いもの」として扱う雰囲気は揺るぎない。
用意のいい人は、トイレの洗面台下の棚に自分のナプキン用ポーチを常備している。剥き出しのナプキンを包み隠す、コットンライクの無害そうな袋が棚下にそっと置かれている様は、洗面台脇のプラスチックの網カゴに無造作に突っ込まれ折り重なっている歯ブラシケースたちとはえらい違いである。

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薬を飲めば全く動けない程ではないけれど、生産効率はほぼ0、精神的には働かない方が100倍マシ、のようなコンディションには、生理を抱えながら働いている人ならば、多かれ少なかれ身に覚えがあるのではないだろうか。先日の私はまさにそんな状態だった。
もう早退しようか、いやでも仕事残ってるし、でも頭働かない、でも勤怠変えるのも面倒だし、でも……と脳内で思考を堂々巡りさせていたら、いつの間にか定時30分前になっていた。
その日は定時後の戸締り当番だったのだけれど、一刻も早く帰宅して休みたい、いや休むべきだと判断した私は、上司Aに「体調が悪いのですぐ帰りたく、当番を代わって頂けないでしょうか」とお願いをした。上司Aは快諾してくれた。
しかしそこで、その会話を聞いていた別の上司Bが声をかけてきた。
「大丈夫?」
文字に起こすとわからないが、この一言は私の体調を純粋に心配するトーンではなく、
「(○○さん普段滅多に体調崩さないのに、今の時期に体調悪いって、コロナじゃないの?というかコロナだったら今すぐ検査して帰って在宅待機してもらうよ?周りを感染させるリスクは)大丈夫?」
という懸念を含意している。
私は「大丈夫です」としか答えられなかった。

上司Bの思いを汲み取っていたのならば、「大丈夫です。コロナじゃないので」と一言付け加えて答えれば良かった。ただ、私にはそれができなかった。「コロナじゃないって、なんで?」と聞かれた時、「生理だからです」と答えるのが嫌だと、その一瞬で思ってしまったからである。

上司Bは私の返答に納得していなかったが、かなり怪訝な顔をしながらもその場は見過ごしてくれた。しかし、翌日生理のピークが去って元気に出社した私に、「体調大丈夫?」ともう一度声をかけてきた。私は「大丈夫です」と簡潔な返答を繰り返した。
なんて煩わしい、無意味な腹の探り合いだろう!
「生理だからコロナじゃないので、大丈夫です」と言えなかった、無駄な恥じらいに囚われていた自分にも腹が立つし、「こんなに女性の多い職場なんだから、明言できない体調不良の原因くらい察してよ」と、上司Bにも腹が立つ。ちなみに上司AもBも男性である。

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もういっそのこと、私の生理予定を社内共有してしまいたい。そうすれば、あらぬ疑いをかけられることもないのに。
この経験から、そんな考えが頭に浮かんだ。
実際にそれをするとなったら、やはり最初は恥ずかしいだろう。でも、それは「生理を公にしてはいけない」という刷り込みがあるからだ。「生理を共有する」のが当たり前の世界だったら、物事はどうなるだろう?
まず、今回のように、生理による体調不良を伝染病と疑われるケースは減るだろう。生理が重くて辛い日の遅刻早退も申請しやすくなるし、半休も全休ももっと取りやすくなるだろう。
従業員同士も、今以上にお互いへの思いやりを持つようになるだろう。
その業務、進めておくから無理せず早く帰ったら?いいの?ほんっと助かるわー。
この日の出張はちょっと困るんです。なんで?あ、生理だもんね。じゃあ次週にずらそうか。
そんな会話も同僚間でしやすくなる。

生理が配慮されるようになって、恩恵を受けるのは女性従業員だけではないはずだ。男性にだって体調の悪い時がもちろんある。むしろ、体調不良の申告しにくさは、女性以上に男性にとってこそ深刻な問題ではないかとも思う。そんな時、「早退します」「定時で帰ります」と言いやすい下地が、「生理による体調不良」が表面化していれば、必ずできているはずなのだ。

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こう考えてみると、良いことだらけのような気がする。ただ今までの社会が積み重ねてきたなんとなくの意識だけが、この「良いことだらけ」を邪魔している。
生理は絶対にもっとオープンになった方がいい。ドラッグストアでナプキンを買った時に付いてくる商品隠し用の茶色い包み紙(こっちとしてはトイレットペーパーや水切りネットを買うのと同じ気持ちだ)も要らないし、学校の保健体育では男子も生理の授業を受けるべきだし、低用量ピルももっと身近になってほしい。
同じように思っている人が、できるだけ多くいてくれたら嬉しいと思う。