私は日本文学を専攻している大学4年生だ。小学生の頃から読書が大好きで、言葉や文章に触れる機会は多い方だと自負している。高校での得意教科は現代文と古文だった。
そんな私が大学生になってショックを受けたのは、とっさに漢字が思い出せないことが増えたということだ。

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3年生の12月、アルバイト先のスーパーで、異動が決まった社員さんに向けて寄せ書きのメッセージを書いているときの出来事である。
「いつもほがらかで、優しく接してくれた」……。あれっ、「ほがらか」って漢字でどう書くんだっけ……。
スマホを開いて「ほがらか 漢字」で検索する。「朗らか」。あっ、そういえばこんな漢字だったな。
「新しい店舗でのさらなるごかつやくを祈っています」……。「かつやく」の「やく」ってどういう漢字だっけ……。
再びスマートフォンで「かつやく」を調べる。そうだ、「活躍」だった。
こんな感じで、何度か漢字をど忘れしてはスマートフォンで調べつつ、メッセージを書き終えた。

また、昨年の12月に卒業論文を提出した際のこと。お世話になったゼミの先生にお菓子とお礼状をお渡ししたのだが、そのお礼状を書いているときも漢字のど忘れは起こった。
「本論文の執筆にあたり、様々な助言をたまわったこと、また丁寧な指導をしてくださったことに感謝いたします」。あー、「たまわる」って漢字どう書くんだっけ……。なるほど、「賜る」か。といった具合で漢字を調べながら、なんとかお礼状を書き終えた。

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「活躍」も「賜る」も、高校生の頃までの私なら絶対に書けた。ていうか特別難しい漢字じゃないのになんで。
思えば、大学生になってから手書きで文字や文章を書く機会は一気に減った気がする。毎回の授業後に書くコメントペーパー、先生とのメールのやりとり、卒業論文……。大学生になってから書いてきた文章は、パソコンやスマートフォンで入力して作っていたものがほとんどだ。やっぱり漢字って書かないと忘れるんだな、と実感した。

それじゃあ、社会人になったら手書きで文章を書く機会はあるのかな。きっとそこそこあるだろう。それも、結構大事なやつ。例えば、結婚祝いのメッセージ、年賀状、退職される方へのメッセージなど。
そう考えると、私はいまの「漢字スキル」のままで社会人になったらまずいかもしれない。それに、文字や言葉に親しんできた人間としては、自分の伝えたい思いやメッセージがパッと書けない場面にぶつかったら悔しいし悲しい。大学生活では何度かそのような場面に直面したが、これから先、そういうことがもっと増えるのかと思うと少し気が重くなった。

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文章を書くということについて考えたとき、私の場合は「手書きで文章を書く」際に感じた不自由やそこで生まれた悔しさ、落胆について述べた。
その出来事を通して、私は、とりあえず社会人として必要な漢字は不自由なく書けるようになりたい、自分の思いや考えることを自分の手で思うままに書きたいと考えた。
そして、そのためにまずは漢検2級を取得しようと決心したのだった。