文字を書くこと。それは私にとって、呼吸のようなものだ。

メモ魔になったきっかけはいつだったのか、全く思い出せない。
物心ついた時から、すぐにメモをすることが癖になっていた。

何かを教えられた時はこのノート。
自分のアイデアが思いついた時はこのノート。
冊子を使い分けながら、とにかく何でも文字に起こすこと。自分の考えや学んだことを見直すことが、私にとってのストレス発散方法だった。

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「貴方のノートはいつ見ても綺麗にまとめられているね」

小学4年生の時、先生から言われた一言がとにかく嬉しかった。
紙面を分割し、メモをする部分と板書を一度に見られる独自の記載法。
メモ魔な私が思いついたまとめ方は、皆の見本としてコピーされ、教室内の壁に張り出された。
誰かに褒められたり、認められることがたまらなく嬉しかった子供時代。
この記憶は私にとっての宝物で、今でもすぐにメモ帳を取り出す私の根源だ。

この癖は小学校を卒業しても変わらず、いつでもペンを手放さなかった。
とにかく文字に起こしてみないと始まらない。この性格を活かし、私は受験期に「記録帳」を付けることでやる気を保っていた。

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毎日勉強した時間や科目、分からなかった単語を書き留めるノート。家庭環境から塾に通うことができなかった私は、毎日児童館に通い、記録を行った。
心が挫けた時はいつでも過去のページを見返すことで、「ここまでやってきたんだから頑張ろう」と自分を奮い立たせる日々。毎日のモチベーションを保っていたのは間違いなく今まで書いてきたメモと、自分がその日書くメモの内容を想像することだった。

第一志望の大学にどうしても行きたかった私。AO入試、センター試験、一般試験と、受けられるだけ全ての受験方法を選択した。
一番時期が早く、1月に開催されたAO入試。面接や作文を見て貰っていた担任に「絶対いけるよ」と太鼓判を押され、会場へ。
緊張したものの、これまでの努力が自分をなんとかしてくれると気持ちを落ち着けた。
特に目立った失敗もないと考えていたが、結果は不合格だった。

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その日のメモはショックで何も書けず、それまでの努力を指でなぞった。厚く積み重なったページと敷き詰められた文字に、明日からまた頑張ろうと強く背中を押してもらった気がした。

「また明日書きます」自分に語りかけるようなメモの書き方は私の特徴。
意気込みややるべきことを文字に起こすことは、自分の脳内を世間に発表したような気持ちになれる。だからこそ、絶対にメモに書いたことをやり遂げようという気合いが入るのだ。

それから1ヶ月間、とにかく文字に触れ続けた毎日。
センター入試と一般入試に無事合格した私は、念願の大学に今通っている。

受験が終わっても、あのノートを見返してこれからも頑張ろう。
そう思っていたのにも関わらず、入学前の片付けで私は無意識にノートを捨ててしまっていた。
数日後、間違えて手放してしまったことに気づく。しかし、不思議とショックはあまり感じなかった。

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今考えると、私は「メモをしたノート」に価値を感じていた訳ではなく、「文字を書く」という行為に勇気を貰っていたのだと思う。

自分の考えや他者からの考えを紙に書き、形にすること。今まで目に見えなかったものを視覚化するその行為が、私の人生を作りあげた。

私は今、就職活動をしている。受験期に文字を書き続けた経験を胸に、また沢山のノートを抱えて課題に挑んでいく。

私にとっての「文字を書くこと」は、呼吸のようなもの。
そして、昔も今も、一貫して私を大きく成長させてくれる存在だ。