私は、素顔を人に見せるのが怖かった。
それはマスクの下の顔ではなく、普段の生活での私を他の人に見せること。
現に、大学を卒業して社会人になるまでの人生で、私の周りの誰一人にも"本当の自分"というものを見せたことがなかった。

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学生時代の私は、典型的な"真面目キャラ"だった。学校では委員長もやるし、先生に好かれるタイプの生徒でもあり、表彰されるような学生生活を送っていた。
そうなると次第に、周りからの評価は「真面目」となり、その”真面目の枠”から少しでも外れると、同級生たちからは「らしくない」といった反応をされていた。個人的にはそれがとても嫌で、どこか恥ずかしさも感じていた。
そう言われるのが嫌なら、周りに「らしくないね」と思われないように、自分を演じていればいいのでは?という結論に至る。
気がつけば、中学の同級生と接する私、高校、大学、そして会社の同期と接する私……といったように、それぞれの環境での”周りが抱く理想の私”を作り上げては、使い分けるようになった。

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そんな私は新卒で、関東にある会社に入ったが、入社後半年で休職し、1年も経たずに会社を辞めて地元に帰ってきた。
初めは、休職したことや、会社を辞めたことを言える地元の友達は少なかった。理由は単純、「どう思われるか分からず、恥ずかしかったから」である。
その期間は、インスタのストーリーを上げる時、辞めたことを知っているわずかな友達だけを「親しい友達」に入れて、その中でしか投稿をしていなかった。

地元で再び生活をしていくうちに、自分の口から辞めたことを話せる友達も増えていったが、真面目キャラを維持しようとする私の考えは完全には壊れていなかった。
そして気がつけば24歳の夏を迎えた。メンタルも戻ってきて心に余裕ができてくると、そろそろ恋愛をしてみたいと思うようになる。

その時、私は考えた。
周りの人が抱く、私への理想像に沿って生きるのは疲れた。せめて、恋人の前だけではありのままの自分を見せられるようになりたい。
そうなると、今までの自分のことを知っている人だと嫌だ。学生時代の自分を知らない人を彼氏にしたい。

そう考えた私が使った手段は、マッチングアプリである。アプリにはあまりいい印象を抱いていなかったが、友達も使っていたので、とりあえず彼氏を作るためのお試しに……といった感覚で始めてみた。
結果は大当たり。

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マッチングアプリで何人かと連絡は取り合っていたが、実際に会ったのは付き合うことになる彼だけである。彼とは、出会ったその日に告白されて付き合った。初対面にも関わらず、交際を承諾した私も、警戒心のない相当なアホであるが、今に至るまで仲良くやっているので、結果オーライだと思う。

彼と出会えてよかったことは、何も飾らない私でいられるようになった点である。
私の学生時代の功績などは、付き合った後に彼も知ったが、私が真面目キャラだったなんて信じてもらえないほど、彼の前では甘えすぎてバカになる。
その一方で、大学の友達に、「彼氏と手をつないで道を歩く」と話せば、「キャラじゃない」と驚かれる。
確かに、大学までの私からはそんなこと想像できないだろう。だが、本当はこうやって誰かに甘えたり、ふざけ合って、バカみたいなことを言って笑い合ったりしたかったのかもしれないと気がついた。

彼と出会ってからというもの、普段友達と接する時の私も少し変わりつつあるらしく、周りからは「なんか雰囲気変わった?」と言われることが増えた。
あまり自分ではそう思わないが、改めて思い返してみると普段の言動の他にも、会社を辞めたことが他の人にバレてもなんとも思わなくなったし、インスタのストーリーも、「親しい友達」にばかり上げることも無くなった。自覚がなかっただけで次第に変わりつつあるのかもしれない。
無自覚にしろ、私が私らしく居られる環境を自分で作れているのなら、それはいいことだ。

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1つ言えることは、友達の前での真面目キャラも、彼の前でのバカな私も、変わらず私なのである。どちらも決して偽ってなどいない。ただ、何か隠したいことを抑えているのか、そうでないかの違いである。
学生時代の私とキャラは異なってもいい。それでも私は変わらず私のままなのだから。
これからも、自分らしくいられる環境を大切にしながら生きていく。