高校2年生、冬。
その日は週末にセンター試験を控えていて、毎年我が校も試験会場として使われていた。会場設営の為、すべての部活が休みとなり、授業終了後は速やかに帰宅するよう、先生達が繰り返しアナウンスしていた。
そんな中、我々バドミントン部一同は、そそくさと部室へ向かった。なぜなら、隠蔽工作をする為だ。

◎          ◎

授業で使用する教材、特に分厚く重たい資料集や辞書などは、持ち帰るのが面倒なので、普段なら教室のロッカーにしまっていた。いわゆる「置き勉」というやつだ。ところが、試験会場となる為、ロッカーの中を空にしなければならなくなった。それでも、どうしても荷物を持ち帰りたくない我々は、部室に置いていくことにしたのだ。

部室に到着した我々は、万が一先生が部室に入ってもいいように、ロッカーの奥や、シャトルが入った箱の底、ジャージの下などに、各々の教材を詰め込んだ。小声でケラケラ笑いながら、真剣に知恵を絞った。絶対にバレない謎の自信があった。

無事荷物を隠し終わり、靴を履き替えに下駄箱へ向かうと、既に昇降口の扉は閉められていた。遠巻きに外から中を覗くと、まだ校舎内に残っていた数人のクラスメイトが、先生に見つかり、なぜまだ帰っていないのかと説教を受け、足止めを食らっている様子がうかがえた。我々は、上履きで校舎の外に締め出されたのだ。とはいえ、のこのこと靴を取りに中に入れば、隠蔽工作自体がバレかねない。これはまずい。

◎          ◎

我々は無言で顔を見合わせ、駐輪場へ走り、上履きのまま自転車で逃走した。
学年ごとに色分けされた、トイレに置いてあるようなダサいスリッパ。必死でペダルを漕ぎ、靴下が出ているつま先で、冷たい風を切った。
思わぬ緊急事態に、笑いが止まらなかった。全員運動部なのに息を切らしていたのは、全力で自転車を漕いでいたからなのか、笑っていたからなのかわからなかった。

ある程度学校から離れたところまで走ると、我々はマクドナルドへ向かった。その日はフライドポテトが全サイズ100円で提供されていた。一人一つずつLサイズのフライドポテトと、ジュースを買って、公園のベンチでパーティーが始まった。
もはやスリッパのことすら忘れて、何が何だか、誰もわかっていなかった。ただ、とにかくすべてが面白くて、日が暮れるまで腹を抱えて笑い転げていた。

◎          ◎

私の高校生活を一言で表現するとするならば、「ふざけていた」に尽きる。大人を舐め腐り、自分が世界の中心だと思っていたし、何もかもが面白くて、毎日毎日くだらないことで大笑いしていた。
決して華やかではない、いたって平凡な高校生活だったが、こういうなんてことない毎日こそが、青春そのものなのだ。それはきっと、大人にならないと気付けない。

一緒にスリッパで駆け抜けた仲間たちとは、今でも頻繁に会っている。きっとこの最もふざけたエピソードは、死ぬまで語り続けるだろう。
凍てつく寒さで冷え切ったつま先のことなんて気にならないほど、夢中で楽しんでいた青春の日々は、私にとってはいつまでも輝かしい、愛すべき思い出なのだ。