私の職場には女性が少ない。システムエンジニアという職種には、なぜだか女性が少ないのだ。
新卒で入社してから3年、20名くらいのチームを3~4回渡り歩いたけれど、その中で出会った女性の先輩はたった3人しかいない。
仕事の中身は好きだし、周りの人にも恵まれていて、女性だからと言って居心地が悪く感じたことはあまりない。
それでもやっぱり女性の先輩が少ないことが悲しくなることがある。

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入社して半年くらいたった時、コロナウイルスの感染者数が比較的落ち着いたタイミングで、先輩たちに飲み会に誘ってもらった。
私にとって入社してほとんど初めての飲み会だったから、とても嬉しかった。
先輩たちはとてもいい人たちで、ただ私以外の参加者は考えてみると全員男性だった。
当たり前だ。当時私がいたチームは新入社員の私が一番下っ端で、女性の先輩は一人もおらず、チームには私しか女性がいなかったのだ。
飲み会の中で、ちょうど職場に女性が少ないという話になったので、理由を聞いてみた。

「どうして、この職場には女性の先輩が少ないんですかね?」
男性上司は少ししょんぼりしながら教えてくれた。
「5年前くらいにプロジェクトが炎上して大変だったころに、女の子はきつくてみんな徐々にやめちゃったんだよね。みんな、優秀だったんだけどね」
その話を聞いたときはいまいちピンとこず、なんで男性の先輩たちはたくさん残っているのに、女性の先輩だけがやめていったのかよくわからなくて、言葉だけが心に残った。

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3年たって、やっと1人前になってきて、仕事を任されるようになった今ならわかる。
システムエンジニアは、繁忙期は本当に忙しい。夜中までマシン室にこもって作業しないといけない時がある。たまには、終電を逃したりもする。
プロジェクトが炎上していたころは、泊まり作業もあったらしい。

今のペースで仕事をしながら子育てしたり、家庭と両立する未来なんて描けないな、と思うことがよくある。
これまでに出会った3人の女性の先輩は本当に仕事がバリバリできて、誰とでも打ち解けられて、とてもかっこいい先輩たちだ。だけど、子育てしながら働いているワーキングママは一人もいない。

家庭を優先したい、家庭と両立したいと思った女性の先輩たちは、きっと今の職場についていけずにいなくなったんだろうなと思う。

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私は最近結婚した大好きな夫との時間を何より大事にしたい。子どもが生まれたら家族を何より大切にしたい、だけど仕事も両立していきたい。そういう生き方を選んでいる先輩が誰もいないことに、不安を感じることが増えた。
もっとすべての人が働きやすくなるように、誰かが仕組みや制度を変えてくれないかなと思っていた。

しかし、最近私の下に入ってきた後輩と雑談をしていたときに、こんなことを言われてはっとした。
「先輩は何より旦那さんが好きで大事なんですねー。でも仕事もめいっぱい楽しんでいて、自分もそんな風になりたいなって思います」。

私は同じ価値観の先輩がいないことに悩んでいたけれど、後輩にとってみれば、私も新しいパターンの「事例」なのだ。
私が自分の価値観をあきらめずに、小さな自分の幸せと仕事を両立させることが、実は後輩にとっての選択肢を増やすことになるのかもしれない。

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私は、今の仕事がとても好きだ。システムがリリースされて世の中で動き出したときの達成感は大きいし、いろいろな人とものづくりをしていくことはとても楽しい。
確かに家庭と両立したい人にとって働きにくい職場だが、大きな声を上げたり、仕組みを変えるためのムーブを起こせなくても、
私が自分の価値感を大切にして、辞めずにただここにいようとすることが、実は組織のためにもなっているのではないだろうか。
私は今の職場を変えるために、そして日本の社会を少しだけよくするために、「あきらめずにここにいること」を小さく続けていきたいと思う。