いけなかったのは、現実を見ていなかった友人か、その場の対応ができなかった私なのか。

私は14歳から19歳くらいまで、ある男性アイドルグループのファンだった。
中学の頃、あまりクラスで馴染めずいじめのようなものを受けた。家族に相談しても、見て見ぬ振りをされた。そこから私の人間不信は始まる。
そんなある日、そのグループの1人のメンバーが出演しているドラマを見る機会があった。なぜかわからなかったが、私の孤独な心の傷を彼の演技が溶かしてくれたのだ。
好きになって半年も経たないうちに、CDを買いファンクラブにも入った。
私は、そのアイドルグループを神様のように崇拝していた。
それが失敗だったのだろうか……いや、あの頃の私は彼らが画面越しで笑っていてくれるからそのために生きていた。生きる希望にするしかなかった。

ファンとしての自信を持てなかった高校時代

高校に入学して、すぐにファン仲間ができた。だが、そこがトラップだったのだ。
その友人は、仲間の振りをして他人を蹴落とすフレネミー……いや違う。ファン用語だと同担拒否というものだった。

ある日、友人とグループのメンバーの1人のことを話していたときだ。本で読んだエピソードをその友人の前で話すと、態度が一瞬で豹変した。私が口からこぼしたエピソードを知らなかったらしい。
「絶対に作り話だよ」
「あんたはファンに相応しくない」
私は勉強は大嫌いだが、好きなことはすべて知らないと気が済まない性分で、本や雑誌やテレビなど何度も見たメンバーの話だという事実に自信があった(エピソードは間違っていなかった)。
仲間はずれをされるようになり、私は学校でそのアイドルの話をするのはやめた。
そして、人間不信に陥る中でいつからかそのアイドルグループたちを見ていて自分の中で1つ夢が生まれる。
彼らと働きたい。
私が関わったエンターテイメントを観て、誰かに喜んでほしい。

最後に彼らと働く。それが夢を諦めるケジメだった

専門学校は、その夢の職業のことが学べる学校に入学した。今までとまったく違って、周りの人たちは優しく互いを刺激し合えるようないい人たちだった。
だが、私は弱い。
周りと自分を比べ自分が一番劣っていると。才能なんてなかった。自信過剰だった。ふと、思い出したあの子から言われた言葉。ああ、アイドルが好きでも自分の身にはなにもならなかったじゃないか。
ファンをやめよう。
退学する前、たった1つだけやり遂げたかったことがある。
彼らと働くということだった。
そんな私に転機が訪れる。アルバイトだが、都内で行われる彼らのコンサートツアーの裏方についたのだ。

どんな雑用でもいい、彼らの役に立てる。それだけでよかった。
最終日、待機場所にいると後ろから来た集団の中に彼らはいた。
通路の扉を開けておくと、「お疲れ様です、ありがとうございます」とその中のメンバーの1人が笑顔で確かに私に向かって言ったのだ。
他にも上の人に感謝を伝えられた業務はあったが、あんなに感謝されて嬉しかったことはない。
あの4日間だけ、自分を好きになれた。
私は、人の役に立てたのだ。

彼らのおかげで、私は「大人」になれた

いけなかったのは、友人か……?考えが子供で、その場の対応ができなかった私なのだ。
彼らのおかげで今ならそう思える。
今、これを書いているときテレビからアイドルグループの1人がキャラクターになっているCMが流れた。
好きになって後悔したことはなかったと、私は微笑む。
きっと一生伝わらないことだから、ここで伝えたいと思う。
「ありがとう」
今日も彼らの笑顔を歌声を、エンターテイメントを観たり聴いたりした誰かは元気をもらっているのだろう。
ファンをやめた現在は勝手ながら、彼らを親のような気持ちで応援している。
そして、ファンを笑顔にさせてくれる彼らが幸せであることを誰よりも私は願う。