社会人6年目。一人暮らしのアパートの洗面台の前で、涙を流しながら過呼吸になった夜。私は思った。
「こんなはずじゃなかった」
努力をすれば報われる未来を信じて疑わずに生きてきた私に、それは突然襲い掛かってきた。

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毎日12時間近く働き、未来が見えずにいたこの6年間。ふと広告で目にした「ウェブデザイナー」という職に心が躍り、スクールに通う為に上司に退職を願い出た。
すると、ウェブデザインを活かせるポジションがあるので、勉強と仕事を両立してみてはどうかという上司からの提案があった。

全くの無収入になる覚悟だった私に舞い降りたチャンス。憧れの部署への異動、そしてスクールへの入学。毎日家と職場の行き来だけの生活だった私に、少しだけ未来の自分が垣間見えた瞬間だった。
好きな仕事と勉強を両立する自分。プライベートの時間も充実している自分。新たなスキルを身に着け、海外で働くという夢を叶える自分。
この決断がどれだけ甘かったか、この時は知る由もなく。

異動先の部署での仕事もウェブデザインの勉強も、最初は楽しくて仕方がなかった。残業のない日々、新しい学びの連続、心ゆくまで勉強できる環境。しかし、2か月もすると仕事も勉学も徐々に滞り始めた。

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仕事し始めてから気づく憧れの部署、新しい上司の本当の姿。挨拶しても返ってこない雰囲気、質問をしても教えてくれなくなった上司、迷惑をかけた別部署や取引先に謝罪する日々、努力しても、努力しても追い付かない膨大な仕事量。ウェブデザインの勉学も甘くない。何度時間をかけて修正しても先生にダメ出しされる課題たち。理解できないプログラミング言語に苦戦する日々。

まだ始めたばかりの両立生活。最初からそんなにうまくいかないことなんて、頭では分かっていた。
別の部署に異動すると決めたのも、ウェブデザインのスクールに通うと決めたのも、両立すると決めたのも、全て自分。
このまま努力さえしていれば。耐えていれば。少しでも垣間見えていたあの未来を、私は手放すわけにはいかなかった。

そしてその日が訪れた。業務中、上司に完全に無視された。初めてではないのに、心が折れる音が聞こえた。
帰宅後、いつものように泣いた。ストレスで寝れず、肌が変色して荒れた顔を押さえながら、洗面所で倒れこむように座り込んだ。大声で泣いた。息が苦しい、と思ったら呼吸の仕方を忘れた。次の日、心療内科に行った。軽い鬱だった。

独りで布団を被りながら、過去を振り返った。事実を受け入れられない。
どこで間違えた?高校受験、大学受験、就職活動、社会人生活、ウェブデザインも全部頑張ってきた。何の為に?こんな未来の為に?
その時は全てが馬鹿らしくなった。自分の努力が全て無駄に思えた。その瞬間、自分の中に灯っていた光が徐々に消え失せ、最後には電池が切れたような感覚があった。

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あれから半年、まだ仕事には就いていない。ただただ、あの日に失ってしまった灯を追い求めている。もちろん失ったものは多いが、気づきの多い半年間だった。

家族や友人との時間が戻ってきた。特に支えてくれた友人達は、自分が受験や就職活動を頑張らなければ、出会えていない人達ばかりだった。私の努力は無駄ではなかったと気づけただけでも、心が救われた。
社会に出て、冷めきっていた心も戻ってきた。忙しく過ぎる日々に埋もれるように消えていく人々。職場で隠れて泣いていた人、悩んで体調不良になって辞めていく人。声を掛ける優しさも余裕も当時の私にはなかった。報われない人は、単に努力が足りないからだと信じてきた。
ただどんなに努力をしても、ダメな時はある。ダメにならないように努力をする必要はある。でも、心を殺してまで必要な努力などないと気づくことができた。

この私の考えを甘いの一言で片づける者もいるだろう。正直、この先どうなるかなんて分からない。ただ言えるのは、未来の私は少しだけ、きっと人に優しい自分であるに違いないということだ。