冬は嫌いだ。
寒いと眠くてやる気スイッチが入りにくい。そもそも寒いからストーブの前から離れたくなく、なかなか動くことができない。そうなるとやろうと思っていたことや、やらなければならないことが進まない。

暖房をつけると電気代はかかるし、ストーブの灯油はすぐなくなる。冬のコートは重いし、冬服は場所を取るし、着込んで出かけると妊婦さんと間違えられる。本当に冬は踏んだり蹴ったりなことばかり。
でも、私は冬でもごく稀に、寒さよりもエネルギーが勝る瞬間があった。
大雪の日だ。

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2023年1月25日、私の住む三重県は何年ぶりかの大雪だった。
前日の夜から雪が降っていて、明日は早く家を出ないと電車がまともに走っていないかも、と少し覚悟した。案の定、朝起きたら外は真っ白。見慣れた風景が別世界のように感じられるくらいに白銀の世界だった。

何とか電車は動いているようだったので、いつもよりも数本早い電車に乗って出勤。乗り換えの電車も大幅にダイヤが乱れていて、寒い中、10分以上ホームで待った。いつもは座れるほど空いているローカル線なのに、この日は息苦しいほど混み合っていた。

電車を降りて、職場へ向かうとき、たった200メートルくらいの道のりで、2、3回滑ってこけそうになった。傘をさしてもコートに雪が積もる感じで、ようやく辿り着いて自分の机に荷物を下ろす。

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「わか先生、先ほど大雪警報が出たので学校休みです」
え……。今なんと?一瞬思考が停止した。
授業の準備して、早起きして、何とかここまで辿り着いた仕事なのに休み?

非常勤講師の私は、休校になれば給料もゼロ。交通費も無駄になり、来ただけ損なのだ。しかも、今から帰れと言われても、ダイヤの乱れた電車は次にいつくるかわからない。ただでさえローカル線で1時間に2本程度しか走っていない電車。いつ家にたどり着くのだろうかと途方に暮れた。

しかし、仕事がなくなったことをどうこう嘆いても仕方がない。家に帰ろうと電車を待っている間、LINEを見ていると姉から1通の連絡があった。
「雪がいっぱい降ってるから、かまくら作りにいこうと思う!」
そして姉の誘いに乗り、私の心に火が付いた。やるぞ。今日は仕事に行き損してしまったから、その分思いっきり雪を満喫してやろうじゃないか!

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帰宅にはいつもの倍の時間がかかった。でも、もうそんなことはどうでもよくなっていた。
以前使っていたスキーウェアを探し、長靴とバケツとスコップを準備し、いざ極寒の外へ!

昼ご飯までの3時間。昼ご飯後の3時間の計6時間。雪が降る中、私たちはかまくら作りに励んだ。初めはそれほど乗り気ではなかった両親も、いつの間にかかまくら作りに参戦していた。
フードや髪の毛は凍り付いたが、体は全く寒さを感じなかった。
かまくらを作ることに必死すぎて、寒いなんて感じることはなかった。むしろ暑いくらいだった。

普段はそれほど仲が良いわけではない父とも、この時は6時間ずっとやりとりをしていた。
体のあちこちが痛くなったが、仕上がっていくかまくらを見ることが嬉しかった。

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完成したかまくらは、7年前よりもかわいく仕上がった。
実は、このかまくら作りは初めてのことではなかった。大雪が降るたびに、私たちは大きな雪だるまか、かまくらを作っていた。

完成したかまくらの前に、「お写真ご自由にどうぞ」と書くと、家の前を通る多くの人たちが歓声を上げながら写真を撮っていく。
寒さの苦手な私も、この時だけは幸せを感じられる。またいつか訪れる寒い大雪の日には、家族総出でかまくらを作り、ほっこりした気持ちになろう。