「推したい友人」というテーマが出るにあたって、私の親友のことを振り返ってみた。
彼女とは中学3年生に上がる前に話すようになった。当時私は、クラスに馴染めず、誰のことも信じることができなかった。かけられた言葉一つ一つを疑い、自分の心を開くこともなかった。
だから、一人で下校していて、初めて彼女に声をかけられた時も、面倒だな、こんなにニコニコ私に話しかけてきて何を考えているんだろうと思っていた。
私は一人でいたかった。でも、あからさまにそれを言うともっと面倒なことになるのは目に見えていたから、そのまま私も口角を上げ、ニコニコと笑っていた。
彼女はそれから帰り道で会う度、声をかけてくるようになった。家族の話、勉強の話、料理の話、アニメキャラの話。色々なことを聞いたし、いつの間にか私も色々なことを話していた。
いつの間にか私は心から笑っていた。自分の話をすることが弱みを握られるようで怖かったのに、どうして話してしまうのか分からなかった。でも、不思議と後悔も不安もなかった。
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3年生になった。私達はクラスが同じだった。
一緒にお昼を食べ、一緒に下校するようになった。ごく自然な流れで私達が一緒にいる時間は長くなっていった。なぜかうっとうしいとは思わなかった。もう、一人になりたいとは思わなくなっていた。
彼女は私を下の名前のちゃん付けで呼んだ。それ自体はさして珍しいことでもなかった。他にも同じように呼ぶ女子はいた。
異常だったのは、私がそれに不快感も、違和感も感じなかったことだ。馴れ馴れしいなんて思わなかった。むしろ嬉しかった。
そして、もっとおかしなことに、私も彼女の下の名前をちゃん付けで呼ぶようになった。そう、呼びたかったのだ。
そうして、いつの間にか私達は自他ともに「親友」と認識されるようになった。
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彼女の何が特別なのかは今でも分からない。特別容姿が優れているわけでも、勉強ができるわけでも、スポーツができるわけでもない。ただいつも笑顔で面白くて、優しくて、真面目で、共感できることが多くて、人の悪口を言わない子。それが彼女だった。
どこにでもいそうなごく普通の女の子の私の親友。それは自信を持って言えるけれど、私達が出会ってからもう3年以上経つのに、誰かに推せるようなポイントなんてパッとは思いつかなかった。
でも、何回話しても、何年たっても、彼女が私の親友であることに変わりはない。誰かに伝わるような魅力なんて思いつかない。
ただ、一つ、私だけに価値のあること、それは彼女が私の心を溶かしてくれた数少ない大切な人の一人だということ。
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私の親友は誰もがうらやむような分かりやすい魅力を持ってはいない。でも、すこし大袈裟な言葉を使うならば、それこそが私と彼女の絆、相性の良さの表れのような気がしてならない。
私達は偶然、帰り道で会い、偶然意気投合し、縁あって今まで交友が続いているだけ。そんな奇跡みたいな2人なのだ。彼女は私を変えてくれた奇跡だ。
誰かに推すための理由には詰まってしまうけれど、彼女は私にしか分からない良さのある、奇跡よりも大切にしたい人だ。