今まで生きてきたなかで、「未来の私」が一番見えないのが今年だ。
……ということだけは分かっている。占い師に予言されたわけでもなく、一か八か何かを始めようとして先行きが見えないでいるわけでもなく、2023年を少しだけ過ごしてみて、そう肌で感じている。
何かを体験したり、環境が変わったりしたわけでもないのに、今年は去年までとどうやら違うらしい。
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肌が敏感になった。
花粉とか、ストレスとか、そういうことではなく、自分を取り巻く環境という名の外的刺激に敏感になった。
仕事のこともそうだ。
今の会社で働き続けるか、転職をしてみるか。
今の街で働き続けるか、拠点を移してみるか。
恋愛や結婚のこともそうだ。
現状維持か、新しい恋を探すか。
結婚をがっつり視野に入れて恋人を選ぶか、結婚に関してはその流れになればすることとして恋愛をするか。
これから何を買うかだって、そうだ。
車、家、家電や家具も、どれくらい使うつもりでいつ買うか。貯金はあるに越したことはないが、使わず死ぬのも勿体無いし、お金を最大限有効活用できる時に使いたい。
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「今の会社で働き続けたい」というこだわりがあるなら、拠点が移ることはほぼ無いので、恋愛は現状維持で、結婚に関しては流れになればする。または、新しい恋を探すなら、できれば転勤の無い人がいいかもしれない。
「新しい恋を探したい」なら、まずは今の恋に別れを告げて、見つけた新しい恋次第で拠点が決まる。今の会社を辞めて転職してもいいけれど、その恋人が忙しい人なら、今の会社は有給休暇の取得等ある程度融通が効くから、続けてもいいかもしれない。転職するなら20代のうちに一度したいから、そろそろ具体的に考えておかねばならない。
たとえ結婚をしても仕事をしたい派の私だが、バリバリのキャリアウーマンになって上り詰めたり、起業したりするほど仕事をしたいわけでもなく、素敵な花嫁さんになって、夫や子供に尽くして温かい家庭を築きたいという夢もない。
人生を仕事に捧げすぎず、かと言って恋愛や結婚にも捧げすぎない、程よい塩梅で……という実は一番強欲なタイプの女なのかもしれない。
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どれか一つ譲れないことが決まっていれば、少し明確になりそうなのに、どれにも特に強いこだわりが無いから、私の未来は可能性に満ちている。悪い意味で。
「体操隊形に開け!」でみんなが定まらないんじゃ、いつまでもバラバラで整わない。
あの、最前列の角で唯一動かない「基準」という存在。あいつが不在なのだ。
就職活動真っ只中だった大学4年生の頃、私は就職先をなかなか決めることができなかった。内々定を貰った数社から最終的に2社まで絞ることはできていたが、そこから決められなかった。
「ライフプランを考えて就職先を決めたらいいよ」と相談室の方に言われて、さらに戸惑ったことを記憶している。それじゃあ、なおのこと分かりません、と言いたかった。
ずっと地元にいたい。30歳までに結婚をしたい。子育てをしながら働きたい。スキルを身につけた後、転職をしたい……。
え?みんな、そんなこと決めてるの?
もうそんな人生設計をしているの?
私は就職先によって、ライフプランを決めようと思っていたし、周囲もそうだと思っていた。
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とりあえず、ライフプランはいくら考えても無いので、ビビッときた今の会社に決めた。
おかしい。私はこんなフィーリングで物事を決めるような行き当たりばったりな人間ではなかったはず。テスト勉強も夏休みの宿題も、計画的に取りかかったし、将来のことだって、周りより早くインターンシップに参加して、しっかり考えながら就職活動を始めたはずだった。にも関わらず、最終的に決め手はフィーリング?
だめだ。私は人生計画を立てて、計画通りに進めていけない。
私は高校受験も大学受験も割とトントン拍子だった。自分の得意分野も成績も分かりやすく数字が教えてくれるから志望校もすぐに決まった。通わせてくれる両親の意向で、県内の学校から選ぶだけだったし、好きこそ物の上手なれで、好きな教科が得意な教科だったため学部も部活動も迷うことがなかった。
学生は良い。期限があるからだ。3、4年したらだいたいの人が追い出される。現状維持という選択肢はなく、強制的に次の場所を選ばなくてはならない。
今の私は「現状維持か否か」というところでまずつまづいている。自由の不自由さを痛感する。選択を自由にできるがために、結局、悩んで雁字搦めになっている。
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冒頭でも触れたが、肌が敏感だ。
SNSで流れてくる同級生の結婚報告、起業した友人の熱い投稿。いいね、スワイプ、拡大。数日経ってまた訪れてみたり。
最近、この手の報告の画面を触る動作や時間が増えたことを肌は知っている。ずっと前から、こんな投稿はよく目にした。なのに、今年に入ってやけに気になる。そして深く考え、迷宮に入る。
それから、最近やけに高級なクリームや液体が塗られていることも肌は気づいているだろう。「未来の私」が見えない不安で、とりあえず手を出すアンチエイジング。
「未来の私」が見えないと感じるのは、ようやく見ようとしたからかもしれない。「未来の私」に今年は敏感になっているから。
今日も一日、「未来の私」は見えてこなかった。いつまで続くのだろうか。