2016年頃。
私は当時16歳。
ごく普通の田舎の女子に過ぎなかった。
小説は好きだし、漫画も大好き。アニメはあまり見なかったけど、クレヨンしんちゃんとドラえもんは欠かさなかった。
お菓子を焼いたり、物語を書いたり。
読書と菓子作り、文章を書く。
これらが、私の好きな時間だった。

その頃私は、調理科のある高校に通っていた。
卒業するときに、調理師免許が取得できる就職に強い学校だった。
将来は飲食業界でも比較的安定している、給食調理に携わりたいとぼんやり考えていた。

◎          ◎

2016年、私はあるアニメに出会う。
「薄桜鬼」(はくおうき)。
薄桜鬼のアニメの放送はずいぶん前だったが、根強いファンがいるおかげかたびたび、広告が上がる。
新撰組をテーマにリアルな京の都と歴史になぞらえた本作は、鮮やか繊細なタッチの絵や、主人公、千鶴の真っ直ぐで強い女性への成長を描く。
私はすぐに全てのアニメを見尽くして、大ファンになり、新撰組にも興味を持ち、古本屋をはしごして書籍を集めた。
歴史はあまり興味を持ってこなかったが、新撰組が暗躍し、新政府に移り変わるその時代だけは詳しくなった。
いつか京都に住みたいとまで思うほどに。
日に日に思いは強くなった。

◎          ◎

京都の住み込みの旅館の仕事を探すようになった頃。
三者面談で親に反対された。
教師にも反対された。
私は家では大人しく、学校では優等生まではいかなかったが、先生の信頼はあった。
京都は観光に行くほうが絶対楽しい。
先生の言葉はその通りで、高校2年で行った京都は本当に楽しかった。
私もあっさり、京都に住むことはあきらめて、むしろ関東地方でがつがつ稼いで京都にバンバン行こうにシフトチェンジした。

わりと単純な性格である。
自分よりも長く人生を生きている親の言うことや、沢山の生徒の行く末を見てきた先生の言うことに従ったほうが人生の流れはうまくいくと判断したまでだ。
好きなことを好きでいるために、私は就職先を関東にした。

就職してから数年。
私はまだ京都に行けてない。
貯金は貯まってきたけれど、あの頃のように身体の芯から燃えあがるような、震えるような感動が今はない。

◎          ◎

毎日会社と自宅の往復でクタクタだった。
行動力もなく、とにかく日々疲弊していた。
本も読まなくなっていたし、一人暮らしの小さなキッチンでは自炊はするけど、自分のためだけに菓子なども焼かなくなった。
沢山の好きから離れてからは、心はどこか枯れていた。
休みの日はひたすら寝て過ごした。
そうしないと生きていけないと思った。

仕事が落ち着いてきた4年目。
私はノートパソコンを買い、物語を書いた。
少しずつ、少しずつ、身体が甦るようだった。
「楽しい」「嬉しい」
沢山の喜びがそこには広がっていた。
最近はまた、お菓子を焼いたり物語を書いたりしている。
相変わらず薄桜鬼も大好きで、京都にはなかなか行けないが、桜モチーフのピアスをつけるとそれだけで気持ちがあがる。

ちょくちょく旅行にも行くようになった。
関東に気づけば6年もいるのに、あまりあちこち行けていなかったことに気がついて、和を探す旅に出ている。
成田、佐原、川越、潮来。
どこも和を感じられて大好きな土地だ。
またひとつ、私の好きが貯まっていく。
好きなもの。
好きなこと。
好きな土地。
私の中で好きを大切に貯めていきたい。