マスク生活がここまで続くなんて、思っていなかった。
コロナ禍のことを指しているんじゃない。
私のマスク生活は、2018年から始まっている。

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2018年4月、私は新社会人となった。
配属が言い渡されるまでの1ヶ月の間、同期たちと研修期間を過ごした。 そのときから私は、マスクを着用していた。
と言っても、入社式や記念写真にはマスクはふさわしくないから、と、暗黙のルールのもとにマスクは外していたが、そのような場面以外ではずーっとマスクとお友達であった。

きっかけは、2018年3月。インフルエンザになったことがきっかけだ。
無事にインフルエンザも治り、外出しようとしたときに、「治ってはいるけど、1週間くらいは一応マスクしておこうかなぁ」と、「念のため」に着用したマスクが、今となってはマスクなしでは生活ができない程になった。

もともと私は、マスクそのものが苦手だった。あの独特のマスクの香りが苦手で、ちょっとした時間でも着用していることが耐えられないタイプだった。
「予防でマスクつけよ〜!」「あ〜マスクの匂い無理〜逆にこの匂いで気分悪くなる〜」といったタイプだったのに……どうして? 自分でもマスクとお友達になったことが不思議なくらいだ。

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職場はマスクの着用に関して、とやかく言う会社ではない。私自身、仕事をする上でもマスクを外した状態での勤務が厳しかったため、マスクとお友達のまま勤務をしていた。
職場の方からは「風邪なんですか?」とよく聴かれたものだ。「風邪予防です」と返すのがお決まりとなっていた。
きっと、職場の方からは「いつもマスクをつけている人」という認識だったのだろう。

少しの期間だけと思っていたのに、なんとなく外しにくいなぁの延長でタイミングを逃してしまい、マスクを着用していることが当たり前になった。いつの間にか、私にとってマスクはなくてはならない存在になっていたのだ。

そんな私も、マスクと一定の距離を置いて過ごそうと決意していた。
このままずっとマスクとお友達のままではいけない、と、どこかで感じていたからだ。
2020年。この年からは少しずつマスクとの距離をとろう。そう決めていた。

だが、現実はそうはいかない。
新型コロナウイルスの大流行である。この世界的なニュースを受けて、なんてタイミングが悪いのだろうと思った。2020年から少しずつマスクとの距離を置こうと思っていたのに。せっかくの決意を台無しにされた気分になった。

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新型コロナウイルス流行から約3年。
決して短くはない時間が経った。私自身、マスクに対しての認識が着用し始めた当初からは変化していた。どうせマスクを着用するなら、このマスクを着用している環境そのものを最大限楽しもうと考えるようになっていた。

これまでは、ただ「マスクを着用して生活する」ことしか考えていなかった。白色の不織布マスクをつけて生活することが私にとって「当たり前」な日常であった。
そこから、仕事のときとプライベートでマスクの色や形が異なるものを着用してみよう、プリーツタイプだけではなく、立体タイプやダイヤモンド形状の立体マスクを着用してみようなど、マスクに対して前向きに捉えることができていた。

今では、仕事のときには白色のプリーツタイプの不織布マスクを着用し、プライベートのときには、ピンク色のマスクを着用している。ピンク色だけでなく、ベージュのマスクもバリエーションに加わった。
着用するマスクの色を変えることで、仕事とプライベートでの気持ちの切り替えをするようにしている。また、プライベートでは少しでも血色がよく見えるように、ピンク色のマスクを好んで着用している。

「血色がよく見えるように」なんて、今まで気にかけたことなんてなかったのに。ただマスクを着用することだけを考えていた私が、マスクにこだわるようになるなんて……。
このような心境の変化は、マスク生活が始まった頃からは想像がつかない大きな変化である。

マスクを当たり前に着用する世の中になったからこそ、向き合い続ける中で生まれた心境の変化だろう。きっと、新型コロナウイルス流行がなければ、今まで私自身が抱いていたマスクに対する思いに、前向きな変化は見られなかったと思う。

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2023年3月現在、政府は3月13日をもって屋内外でのマスク着用を個人の判断に委ねるよう規制を緩和。職場でもマスクの着用は個人の判断に委ねる方針だ。
私自身にとってマスクと向き合うときが改めてきた。

マスクに対して前向きな捉え方ができるようになってきたが、現時点では人前でマスクを着用していない状態で過ごすことは厳しいと感じている。だが、前向きな捉え方ができている今の私なら、人前でマスクを外すこともきっとできると思う。

今もまだ、職場でもプライベートでもマスクは必需品だ。
しかし、プライベートで人が近くにいない屋外で時折マスクを外すことができるようになった。
私にとって屋外でマスクを外すことは前向きで、大きな変化である。

人前でマスクを外して、当たり前のように過ごすことができるまで、時間はかかるだろう。
それでも、前向きな変化が起きている今の私なら大丈夫。そう確信している。
そしていつの日か、人前でマスクを着用せずに過ごせる私になりたい。