優しくて、正直で、わたしのことを大好きでいてくれる彼のことは、好きだけど、きらい。

もうすぐ付き合って二年になる彼は、いつだって優しかった。
わたしの気持ちが暗くなって、何もかも悲しくて、何もかも嫌いになって、彼にすら八つ当たりをして。そうしてまた自分が嫌いになって。
どぷり、と沼の底に引っ張られていくような気持ちになった。
そんなときだって、優しかった。

わたしの醜くて暗い気持ちを受け止めて、何度も好きだと伝えてくれた。
諦めずに、暗い沼の底から引き上げてくれた。
そうして、彼の温かな優しさに触れながら、半年、一年、そして二年が経とうとしているのだった。
振り返れば毎日が幸せで、ふと思い返しても笑顔があふれることばかり。

でも、とある一か所だけ、引っかかる。
それは、自分の家族との関わり方だった。

◎          ◎

わたしも彼も実家暮らしで、わたしは何度か彼の実家にお邪魔させてもらったことがあった。
初めてお家に行ったときは、ひどく緊張したものだ。

上品で落ち着いたワンピースに、背伸びしてデパートで買った洋菓子。
濃すぎず薄すぎずのかわいらしいメイク、脱ぎやすい靴を選んで、丁寧に髪の毛を巻いた。
そもそも人の家で遊んだり、自分の家に人を呼んだこともなかったから、全部初めてだった。

祖父母と同居している彼のお家は、彼とおんなじように温かかった。
話には聞いていたものの、実際に会うとやっぱり素敵な人たちだなあ、とすぐに好きになった。
けれど、彼を、彼の家族を好きになるほど、きらいになってしまいそうだった。

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私の家も彼と同じように祖父母と両親と同居している家庭だったが、仲が悪かった。
家庭内別居、と言ってよいのかもしれない。
家族全員で食卓を囲むことはなかったし、互いに関わらないよう、顔を合わせないように生活していた。
毎日が息苦しくて、つらかった。
そんな冷え切った家庭だからこそ、大好きな彼の温かな家庭が疎ましかった。
好きだからこそ、見ていられなかった。

車が好きで、ゲームが好きで、彼と趣味が全く同じ父親。
成人しても息子とテーマパークに行くような母親。
気難しいけれど、ときどき彼と買い物に出かける祖父。
多忙な両親に代わって毎日温かなご飯を作ってくれる祖母。

そして、家族五人で食卓を囲んでその日あったことを話す。
お風呂の順番で揉めたり、テレビ番組を巡ってじゃんけんしてみたり。
そんな当たり前で、生ぬるい日常が欲しかった。

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けれど、こんな気持ちは彼に生涯伝えることはないだろう。
別れたって、決して伝えることはない。
どろどろとした稚拙な嫉妬と虫唾が走るような枯渇感は、優しくて温かな彼にはきっとわからないだろうから。

やっぱり彼の家族の話を聞くたびにあまり良い反応ができない。
この間家族で買い物に出かけたときにね、なんて一文を聞いただけで、ぶわりと鳥肌が立つ。
だってわたしは、ひどくうらやましかったから。

貴方の家族は好きだけど、きらい。ごめんね。