「少しデリヘルで働いていたんだよね」
大学3年生の春休み直前の夕暮れの表参道、彼女が唐突に話し出した。

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彼女は学校のプログラムでのアメリカ短期留学を共にしたメンバーだった。学科が違ったために、ほとんど面識のないままに渡米となったが、私は勝手にオリエンテーションの時より彼女の美しい外見に引かれていた。
そして何よりもあの真っ直ぐ素直な性格。人の話をスポンジのように吸収し、しっかり目を見る姿に好感を持たない人などいないだろう。

彼女とは現地でのクラスがことごとく違った上に、寮も別だったが、私がストーカーのように話しかけた。
プログラム終了後も彼女とは連絡が続き、現在でも年に1度はワインを飲みながら近況を報告し合っている。

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そんな彼女がデリヘルで働いていたことを報告した。
私たちの通っていた大学は都内でも学費が高いことで有名で、幼稚園からの一貫校であるがゆえに、物凄い資産家の同級生が多くいた。
キャンパス内は、教科書が入らないような小さなブランドバッグに花柄ワンピースの女子が溢れていた。
私のような高校までは公立学校で育ってきた人間にとって、キャンパスは全くの異世界だった。

彼女たちに本気でついていこうとするのであれば、時給がわりかし良いと言われる塾バイトをしても全く足りない。
なので、キャバクラを始めとする水商売や、まだ巷では今ほど声高に話題に上がっていないパパ活をしている子が大勢いた。

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当然、高時給目的以外でもキャバクラで働いている子もおり、女子大生の人気バイトだったということもある。
みんな食堂で、流行りの化粧品について話す勢いで、評判の良いスカウトマンの情報をシェアする。
彼女もキャバクラで働いたことがあると話していたことは記憶していた。
しかし、デリヘルを始めとする風俗の話を聞くことはなかった。

今でいうパパ活をしている子たちも、内情は知らないが、頑なに性的関係については否定していた。
彼女にデリヘル勤務の報告を受けた時、正直リアクションに困った。

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私は元から性産業に興味があり、そこで働く女性たちを書いたルポを好んで読んでいた。
なので、性産業については同年代の中では知識もある方だと思っていたが、急な報告に面を食らってしまったのが本音だ。

そして更に驚いたのは、私の予測した主訴が見当違いだったということ。
彼女が私に伝えたかったのはデリヘルで働いた体験談ではなく、そこで出会って現在付き合っている彼氏についてだったのだ。

「ほら、セックスの相性って大事じゃない?デリヘルって男の人はお金を払うわけだから、本音のセックスをする。その相性が合うってことは、今後のセックスもかなり見通しが良いというか」

私の性への先入観を暗に指摘されたようで、居た堪れない気持ちになった。
何もデリヘルを自由意志で選択した彼女にとって、それはあくまでも職の一つで、もはや出会いの場ですらある。

そして、彼女の大切な恋愛要素である「セックスの相性」を忠実に追い求めた先がデリヘルを経由した出会いであることに異論はない。もはや、そこまで突き詰める姿や思考に惚れた。そこに私のバイアスを入れることで、彼女の価値観を否定しなくて本当に良かった。

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最近、都内でもデリヘルのメッカとして名高い鶯谷へ行く機会があった。
ハイヒールに大きなバッグを持った女性とすれ違った。
ひと言に語れない世界だからこそ、単調な性的価値観で彼女たちを見ることはできない。
そしてその隣にいる男性に対してもそう。
よし、そう思わせてくれた私の師匠とも言える彼女にLINEをしよう。