手前みそながら、私は昔から人が寄ってくるタイプの人間だった。私自身、誰かを疎ましく思ったことはさほどなく、去る者は追わず来る者は拒まず精神でずっと過ごしている。
高校に入って出会った彼女は、そんな私が話しかけた唯一の人間だった。

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高校入学して最初の自己紹介で、彼女の好きなアーティストが私と同じだったことが話すきっかけになった。
彼女は面白いし、個性的だ。でもそこまではその他の友だちと同じ感覚で、彼女と特別仲良いわけでもなかった。

私が彼女により興味を持ち始めたのは、彼女の夢を聞いてからだった。
「スタイリストになりたい」
まだ夢も将来自分がやりたいことも何もなかった私にとって、まっすぐにそう言った彼女はかっこよく見えた。生まれた時からそうなると決まっていたかのように、彼女の夢は揺るがない。

高校というのは、自由なようで雁字搦めだ。できることも限られている中で、彼女はその能力を発揮していた。
私も彼女も同じ書道部に所属しており、毎年秋になると県内で書道パフォーマンス大会が開催される。その年は私が大字(メインとなる大きな文字)を務めることになった。
構成も衣装もダンスの振り付けも自分たちで考えなければならない中、彼女は私の衣装を作ってきてくれた。ちゃんと採寸をし、家でミシンを使い、書道の世界観に合わせて合わせがある着物を。

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高校は普通科だったため、完全なる独学だ。でもちゃんと服になっていた。本人は納得がいっていないようだったが、私から見れば、彼女の夢がもう夢ではなく手の届くところまで近づいているような気がして感動した。そうか、人はこうして夢に近づいていくのか、と彼女を通して学んだ。

それから彼女は東京の有名な服飾の専門学校に進学し、今は高級ブランドのアパレル店で働いている。時折、ファッションショーやメディア撮影のフィッターとしても呼ばれるらしい。

先日、彼女がかぎ編みの手提げカバンを編んでくれた。色はライトグリーンとサーモンピンク、春にぴったりで、私の好きな色だ。これも専門学校で学んだのか聞くと、YouTubeで見て学んだそうだ。店頭にも出せそうなクオリティで、私はまた感動した。

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夢は意外と脆い。やりたいことを現実にするって難しくて、できなかったらどうしようという思いがまとわりついて怖い。就職活動を通して、自分の夢を無理だと諦めてしまった私には、ただまっすぐ前を見ている彼女が眩しい。

まだ21歳の私には何が大事なのかわからない。安定的な収入?ワークライフバランス?ワクワクする仕事?でもこんな問いかけは、同じ21歳の彼女にとっては愚問なのだろう。

今の彼女の夢はアメリカに留学することだそうだ。欧米のファッションと英語を同時に学び、いつか世界中を股にかけたい。そう話す彼女を私は応援し続けたい。
夢を夢で終わらすことなく、ちゃんと行くべき道を見つけて突き進んでいる彼女を、私は一番に推している。